鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

スモールステップで困難な課題を解決

[要旨]

エグゼクティブコーチの谷口りかさんによれば、千葉県四街道市にある日東物流では、従業員の1か月あたりの拘束時間が、当初、400時間もある従業員もいた中、293時間以内に抑えるという目標を、スモールステップにして徐々に近づけて行き、10年間かけて達成することができたそうです。このように、困難な課題であっても、時間をかけて達成しようとする強い意志をもつことが重要ということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの谷口りかさんのご著書、「2024年問題成長するトラック運送会社が見つけた『答え』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、千葉県四街道市にある日東物流では、従業員の健康診断を、単なる義務的なコストから、従業員の安全運行を支える投資へと位置づけを変えた結果、従業員の病気を早期に発見できるようになり、また、会社にとっても従業員の休職で大きな損失を防ぐことができるようになったことから、双方にとってのリスク回避になったということについて説明しました。

これに続いて、谷口さんは、従業員の方の拘束時間を293時間以内に収めるという課題に対し、スモールステップにより、10年かけて解決したということについて述べておられます。「健康に大きくリンクしてくる問題、それこそが2024年問題として現れた『労働時間』です。業界では、長時間労働が常態化しており、これを改善するのは容易ではありません。特に同社は2時間体制での配送を行なっており、通常そういった会社ではシフトは長時間になりがち、で複雜、また顧客のニーズに応じて追加業務などが発生するといったことから、労働時間が増える傾向にあります。

『10年以上前は拘束時間が400時間を超えるようなドライバーもいたし、(当時の目標の)293時間内に全員おさめるなんていうのは、もう遥か彼方の夢みたいな感じだったのですが』と菅原社長は振り返ります。『一気に目標を達成することではなく、小さく小刻みに』段階的な目標を設定し、取り組みを進めました。いわゆる『スモールステップ』です。最初の目標は拘束時間を380時間以内に抑える、達成すれば次は360時間を目指す。2年ぐらいかけて340時間になったら、320時間へ。

会議の中では誰が目標時間を超えているかが可視できるので、なぜ超えてしまうのかを把握し、それが突発的でなく慢性化しているのであれば、改善のための原因を探ります。改善点を特定できれば、荷主側ヘお願いしに行って、労働時間短縮のための対策を取る。これを少しずつでも継続的に取り組んだ結果、10年かかったが293時間以内に収めることができたということです。『10年もかかってしまった、でも、どんなに時間がかかっても少しずつやり続ければ、改善できるという証左にもなる』と菅原社長は言います」

拘束時間とは、従業員の方が出社してから退社するまでの時間で、働いている時間だけでなく、休憩する時間も含まれます。そして、この拘束時間は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)によって、1か月の上限は293時間(2024年4月以降は284時間)までに制限されています。日東物流では、当初、拘束時間を縮小することはとても難しいと感じていたわけですが、目標を段階的にして、10年かけて293時間に抑えることができるようになったようです。

繰り返しになりますが、この目標達成は容易ではないとはいえ、スモールステップにすることが、達成できた大きな要因と言えます。したがって、運送業以外の中小企業でも、困難でありながら解決しなければならない課題があった場合、スモールステップの手法を取り入れることで、達成の可能性が高まると考えられます。

ただ、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、中小企業経営者の多くは、すぐに効果が得られることでなければ、実践に消極的です。とはいえ、中小企業経営者に限らず、多くの方は、なかなか効果がでないことはやろうとしないでしょう。したがって、日東物流が拘束時間の短縮に成功した真の要因は、目標達成に向けた意欲を長期間維持できたということだと思います。

これは、稲盛和夫さんが、「潜在意識にまで透徹する強い持続した願望をもつ」という考え方に通じることだと思います。正直なところ、スモールステップにすればどんな目標でも達成できるとは、私も考えていませんが、解決しようとする意志を持たなければ、何にも手を付けられません。よい会社になるかどうかの違いというのは、つまるところ、経営者の意志の強さなのではないかと、私は考えています。

2025/2/27 No.2997