鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

正しいことが企業防衛やリスクヘッジに

[要旨]

エグゼクティブコーチの谷口りかさんによれば、千葉県四街道市にある日東物流で、1人の退職したドライバーが労働組合を通じて会社に団体交渉を申し入れたことがきっかけで、就業規則の策定や雇用契約書の締結などを行うようにした結果、労働組合側の姿勢はとーンダウンし、2年後に解決に至ったそうです。そして、このような経験から、同社社長は、正しいことをやっていくことが、企業防衛やリスクへッジになるという実感できたということです。


[本文]

エグゼクティブコーチの谷口りかさんのご著書、「2024年問題成長するトラック運送会社が見つけた『答え』」を拝読しました。同書では、2024年問題に取り組んだ5つの会社の事例が紹介されています。ちなみに、「物流の2024年問題」とは、公益社団法人全日本トラック協会によれば、「2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、『モノが運べなくなる』可能性」のことです。

同書で、谷口さんは、まず、千葉県四街道市にある株式会社日東物流の、就業規則等の整備の事例についてご紹介しておられます。「日東物流は1人の退職したドライバーがユニオン(労働組合)を通じて会社に団体交渉を申し入れたことがきっかけで、ざらに会社の体制を固めていくことになりました。『就業規則の策定とか雇用契約書の締結など、ちやんと出来ていなかったことを少しずつ改善してきたおかげで、会社を守ることが出来たと思っています』と社長は話しますが、その言葉以上に大変な戦いであったことは想像に難くないでしょう。

当時の運送業界では、ユニオンが頻繁に運送会社を標的とし、大きな金額を要求するケースが相次いでいました。日東物流も、未払い残業や不適切な労働条件を理由に多額の解決金を求められました。しかし、すでに経営改革が始まっていたおかげで、付け込まれることの多かった雇用契約書や、就業規則も賃金規定も整備されていました。同業の会社では契約書の不備や未払の残業代などを訴えられ、ドライバーひとりにつき数千万単位の賠償金を支払ったといったような話があり、業界全体が戦々恐々としていたような頃でした。

会社の前で街宣する、ビラを撒く、ポスターを貼るなど様々な活動をしてきたユニオンも、日東物流側の正しい事実に裏付けられた交渉に、次第にトーンダウンしていったようです。『お金が払えないとか、そういうことではない。払ってしまえばもうおしまい、会社に対する抗議行動は止めてくれるでしょう。しかしそれでは、会社が取り組んでいる“正しいこと”に泥をかけられたことになる。それではいけない。

時間がかかっても、従業員のみんなが一生懸命仕事して得てくる利益をそんなことに捻出したくないという思いもありました』という言葉には、やはり、“正しいことを貫き通す”姿勢と、短期的な妥協よりも長期的な会社の未来を見据えた当時の想いが伺えました。そして、そんな日東物流の正しいことを妥協無く貫く交渉が実り、2年もの時間がかかったものの、双方合意で解決していったとのことです。社長は、『だからこそ、正しいことをやっていくことが、企業防衛やリスクへッジになるんだっていう事を、僕自身も管理職も実感した事件だったと多います。

正しいことを行うことがすごく大事だということが、目に見えてわかったのが、一連のユニオンの問題でした』と、結果として同社の経営改革が正しい方向に進んでいることを証明する契機となったと、振り返りながら捉えられています。また、管理職にも『正しいことをコツコツと実践する重要性』を再認識してもらえた大きな機会となりました。危機を乗り越える力と企業文化の強化をもたらした出来事としてしっかり刻まれることとなりました」

就業規則は、労働基準法第89条で、「常時十人以上の労働者を使用する使用者」に作成が義務付けられています。しかし、実際に就業規則を作成していない会社も少なくないようです。そうなってしまう理由としては、就業規則そのものを策定することに労力がかかるということもありますが、「法律や規則は建前で、規則通りにやっていたら、会社がつぶれてしまう」と経営者の方が考えている方が多いからだと思います。

このような考え方に対して、「就業規則は法律で義務付けられているのだから、作成しなければいけない」と反駁することもできますが、それよりも、経営者目線での考え方で改善のためのきっかけをつくることが大切だと、私は考えています。例えば、就業規則のある会社とない会社では、どちらが評価されるでしょうか?もちろん、従業員は就業規則のある会社の方が、より安心して働くことができます。

また、万一、従業員との間で紛議が起きたときでも、就業規則が策定され、会社が就業規則を守っていれば、会社は責任を問われることはなくなります。それでも、「自社が法律に基づいて就業規則を策定し、それを守っても、それらを守らない会社に仕事が奪われてしまう」と懸念する経営者の方もいると思います。

私も、「ズルをする人(会社)が得をする」という現実を見たことがありますし、やはり、人として、そういう人を見ると、悔しいと感じることも理解できます。でも、そのようなズルを続ける会社は、やがてボロが出て、事業が行き詰まるでしょう。さらに、日東物流は、時間を要したものの、正しいことを貫いたことが、よい結果に至っています。このような会社が実際にあるということがわかるだけでも、「自社のために正しいことをする方が良い」と思えてくると、私は考えています。

2025/2/25 No.2995