鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

企業価値は将来生み出す現金の現在価値

[要旨]

公認会計士の森暁彦さんによれば、企業価値とは、企業が事業から将来生み出す現金を現在価値に割り引いた金額の合計額を意味するということです。このことは、未来に明るい展望が開けて、世界全体が成長するモメンタムにあると、企業の価値も上昇するということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の森暁彦さんのご著書、「絶対に忘れない『財務指標』の覚え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、森さんによれば、銀行は、融資の申請があった会社に対して、銀行の役割やマネーの特性を十分に理解できているか、すなわち、会社が大きな資金を受けるに足る洗練されたリテラシーがあるか、じっと観察しているので、これからの財務担当者には、銀行の特性をよく理解しながら、適切なコミュニケーションを行う資質が求められるということについて説明しました。

これみ続いて、森さんは、企業価値の計算方法について述べておられます。「ファイナンスの世界において企業価値(EV=Enterprise Value)とは、企業が事業から将来生み出す現金を現在価値に割り引いた金額の合計額を意味します。この計算を『企業価値の算定』や『バリュエーション』と言います。ファイナンスを理解するうえでとても大切な概念が、このバリュエーションに含まれています。それは、(1)ものごとの価値は将来稼ぎ出すキヤッシュフローが源泉であることと、(2)時間価値を考慮すること(=割引率を用いて現在価値に引き直すこと)です。

企業や投資家がMA&を行う際、企業が事業や企業への投資を決める際、商品を購入する際、資金調達を行う際など、あらゆる局面で考慮するのがこの2つです。DCF法(Discounted Cash Flow)では、企業が将来獲得するフリーキャッシュフローをWACC(割引率)で割引計算し、現在価値に直したものを企業価値としています。ここでの企業価値を正味現在価値(NPV=Net Present Value)と言うこともあります。フリーキヤッシュフローは、簡易的には『配当前・利払い前の営業キャッシュフロー-設備投資額』の計算式にて算出します。(中略)

言い換えれば、企業の事業活動により稼ぎ出す手取りのお金(キャッシュフロー)です。配当前であり、利払い前のキャツシュフローですので、この稼ぎは『株主と債権者の両方に帰属する性質』を持っています。DCF法を理解できる『簡便な公式』があります。DCF法による現在価値(NPV)=FCF÷(WACC-g)これは今期のフリーキャッシュフロー(FCF)が、今後永久成長率(g)で成長し続けると仮定した場合の計算式です。この公式を見ていただくとお分かりのように、DCF法による現在価値の計算の本質は、とてもシンプルな割り算に集約できます。

割り算ですから、分母の数値が大きくなると現在価値が下がります。逆に、分母が小さくなると現在価値は上昇します。つまり、分母にあるWACC(割引率)が上昇すると現在価値が下がります。WACCの中身は事業のリスクに対応した株式資本コストや金利ですので、リスクが上がるほどWACCが上昇し、現在価値が減少します。また、同じく分母にあるg(永久成長率)が上昇すると、分母が小さくなるため現在価値が増大します。未来に明るい展望が開けて、世界全体が成長するモメンタムにあると、企業の価値も上昇するということです。

しかしながら、ファイナンスやバリュエーションを学んだ中級者ほど、『DCF法って言ったって、キャッシュフロー計画やWACCの設定の仕方次第で価値をなんとでも算出できるじゃないか、つまりガバガバな算定方法だから、DCF法での価値算定なんて意味ないね(笑)』と小馬鹿にするものです。でも、やはり投資家にとっての価値は企業に蓄積される現金(キャッシュフロー)であり、だから企業価値の本質はDCF法です。一見ガバガバなDCF法だけに、事業計画の策定や割引率の設定の仕方の一つ一つに、プロフェッショナリズムが宿ります」

WACCについて、少し、補足します。WACCは、加重平均資本コスト(Weighted Average Cost Of Capital)のことで、次のように計算します。WACC=D÷(D+E)×rD×(1-T)+E÷(D+E)×rE(D:有利子負債、E:株式の時価総額、rD:負債の利息率、T:税率、rE:株式の配当率)WACCは、簡単に言えば、有利子負債と出資の調達コストの加重平均です。そして、DCFの計算にあたっては、将来獲得するCFを現在価値にするときの割引率として使われています。

ただし、森さんも少し触れていますが、融資利率は融資契約書で明確にされているのですが、配当率は客観的に明確にすることが難しいようです。そこで、実際には、一般的に求められるROEの数値と言われている8%で計算するといった対応が行われているようです。話を本題に戻すと、私は、森さんの説明に間違いはないと思っているのですが、「企業価値とは、企業が事業から将来生み出す現金を現在価値に割り引いた金額の合計額」という説明は、あまりピンとこないのではないかと思っています。

確かに、CF(=現金)は、短期間では利益とは一致しませんが、長期間で見れば、CF≒利益となるので、「企業価値とは、企業が事業から将来生み出す『利益』を現在価値に割り引いた金額の合計額」と説明する方がピンとくると思います。ところで、企業価値を把握することの意義とはどういうものでしょうか?例えば、貸借対照表では、総資産から負債を差し引いた残りが純資産であり、純資産を企業価値と考えることができます。しかし、純資産の額が同じでも、事業が成長している会社と、衰退している会社では、同じ価値と判断することはできないでしょう。

もちろん、事業が成長し、将来、利益が入る見込みのある会社の方が企業価値が高いと言えます。そこに、DCFで企業価値を計算する意義があると言えます。そして、出資であれ、融資であれ、資金の提供者から見れば、事業活動によって将来の利益を獲得することが期待できなければ、自社の事業価値は低くなり、資金を提供しようとする意味もなくなってしまうということも理解できると思います。したがって、経営者は、継続的に利益を得ることが、企業価値を高め、安定した資金調達を可能にするということを認識して事業活動に臨むことが大切と言えます。

2025/2/17 No.2987