[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、会社は企業理念のもとに従業員が集まっているので、従業員にとって企業理念実現に向けて進行していることへの実感が一番のエネルギーになることから、経営者は従業員に対して、どうなれば企業理念に近づいているのかをあらかじめ定義し示すことで、従業員はその定義を達成しながら満足度を高めて行くということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、大企業にいると、自分が与えられる影響の小ささに不満を感じ辞める人が多いそうですが、そのような人が会社を移っても、また、同じ課題に遭遇することになるので、組織と個人の関係は切り離すことはできず、組織のために活躍する人が素購らしいと考えるべきであるということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、経営者は従業員に対して、会社が成長することを喜びに感じるような環境を整えなければならないということについて述べておられます。「私たちは、会社そのものが社会から必要とされることによって、その会社の一員であることを誇りに思います。個人の中に、『この会社に居続けないと、損な気分になる』という気持ちが芽生えるからです。
その会社の売上が伸びたり、会社のことがメディアに取り上げられたりし、社会的評価があがることでも、『進行感』は発生します。その中でも、会社が企業理念の実現に近づいていく実感が得られることによる『進行感』がもっとも大切です。本来、会社は『企業理念』の旗印のもとに人が集まっているので、組織で働く人にとって、企業理念実現に向けて『進行』していることへの実感が、一番のエネルギーになるのです。経営者は社員に対して、『どうなれば企業理念に近づいているのか』をあらかじめ定義し、示す必要があります。
そして、その定義を達成していくことで、企業理念の実現に向けての『進行感』を組織全員で共有していくのです。会社は、目的や目標に向けて進んでいく存在です。企業理念にどんどん近づいていく。そうやって全体が前に進んでいくことで発生するのが、『進行感』です。組織で働く人はみな、この進行感を感じてほしいと思っています。組織全体が前へ前へと動いていく感覚です。それにより、組織の一員であることに『誇り』を持つことができます。それが、『この会社にいること』の利益なのです。
目先のボーナスや社員旅行などでは味わえません。進行感ががあることにより、社員は『辞める理由』がなくなります。人の価値観観は多様です。たくさんのポーナスを求めていない人もいれば、社員旅行がまったく嬉しくない人もいます。わかりやすいメリットを提示してしまうと、『別に、それを求めていないから』と、言い訳の材料を与えることになります。しかし、進行感は違います。人間であれば、誰もが喜ぶ最大のメリットだからです。
そうは言っても、口先では、『組織の成長なんて嬉しくない』と言うかもしれません。ただ、本心は別です。人の上に立つ人であれば、その軸がブレないようにしてください。『組織が成長して嬉しくない人はいない』そう信じるようにするのです。もちろん、組織が大きくなることにより、わかりやすく給料やボーナスは増えます。組織の利益が個人に還元できることも忘れてはいけません。ただ、そこが目的ではない。本質的ではないということです」(259ページ)
安藤さんは、「従業員が組織の一員であることに誇りを持つことができるようになれば、会社を辞める理由がなくなる」とご説明しておられますが、これは、多くの研究科によって様々な説明が行われています。そのひとつは、米国の心理学者、ハーズバーグの提唱した、「衛生要因・動機付け要因」です。この理論は、従業員は、給料を増やすこと(衛生要因)で不満がなくなるが、それだけでは満足するには至らず、仕事の達成感を感じたり上司からの承認を受けたり(動機付け要因)しなければ、満足しないというものです。
別のものとしては、これも有名なマズローの欲求5段階説で、人間の欲求は、生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→承認欲求→自己実現の欲求と、階層化した欲求があるというものです。すなわち、会社に属すること(社会的欲求)よりも、自分が働いた結果が、会社の業績の向上によって社会的な評価を受ける(自己実現の欲求)ことの方が、より大きな満足感となるということです。
ですから、経営者は、例えば、KGIやKPIを設定し、従業員の働きがどれくらいの成果となって現れているかを迅速に伝えるといった仕組みを整備することが求められています。ちなみに、スターバックスコーヒージャパンの元CEOの岩田松雄さんは、同社のCEO時代に、次のように考えていたと、岩田さんのご著書、「今までの経営書には書いていない新しい経営の教科書」で述べておられます。
「『どんな会社を作りたいか』と問われると、私は、『もし、社員が、3億円の宝くじに当たったとしても、勤め続けたいと思ってくれる会社』と答えます。3億円を手にした人に、金銭的な意味で、働く理由はほとんどないでしょう。それでも、現在の勤務先で働き続けたいと思うか、私は、経営者として、そんなNPOのような企業を作りたいと思っていました。例えば、店舗スタッフにとって、スターバックスは、決して給料が高いというわけではありません。他に、もっと高い給料の会社はあります。
さらに、スターバックスで、店長まで経験していれば、他社から引く手あまたです。しかし、そう簡単には、パートナーの皆さんは、辞めようとしません。それは、スターバックスが大好きだからです。ミッションに共鳴した仲間と働くのが楽しくてしょうがないのです。お金以上に、はるかに大切なものがあるのです。スターバックスで働くこと自体が報酬になっているのです」(42ページ)
実際、みなさんも、スターバックスを利用したときに、同社の従業員の方たちは生き生きと働いていると感じることがあるのではないでしょうか?それは、給料などの物理的な欲求だけで働いているからではないということが要因となっていることは明らかです。もちろん、一朝一夕で同社のような職場をつくることはできませんが、そのような会社を目指さなければならないということを安藤さんも岩田さんも考えているのだと思います。
2025/1/12 No.2951