[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、大企業にいると、自分が与えられる影響の小ささに不満を感じ辞める人、すなわち、「あなたがいないと困る」と言って欲しいという欲望を持っている人が多いそうですが、そのような人が会社を移っても、また、同じ課題に遭遇することになるということです。すなわち、組織と個人の関係は切り離すことはできず、お互いに協調し合う関係であり、組織のために活躍する人が素購らしいと考えるべきであるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、アイデアや商品が素晴らしいと、ある程度の事業化は可能ですが、環境は常に変化するため、組織によって新たなアイデアが生み出され、それを迅速に収益化するという必要性が生じる段階が必ず訪れますが、それはその必要性が生じてから組織体制を整えても間に合わないので、起業する段階から体制整備を行うことが求められるということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、組織に属している人は、組織のために活動するべきであるということについて述べておられます。「大企業では、より大きなやりがいを感じられるはずです。しかし、いま、大企業にいることで自分が与えられる影響の小ささに不満を感じ、辞める人が多いそうです。その葛藤は、本書で何度も述ベてきた『属人化』の話と同じでしょう。『あなたがいないと困る』と言ってほしい、その欲望です。本書の冒頭に、この言葉は麻薬と書きました。
というのも、仮に大企業を辞めたとしましょう。次のキャリアでは、ベンチャー企業や小さな組織に入ると思います。そこで、働くことにやりがいを感じます。会社はどんどん成長していきます。いずれ自分の役職があがったり、さらに会社が大きくなったりすると、また同じ壁にぶつかります。そして、また物足りなくなるのです。次から次へと、ベンチャー企業を渡り歩く人がいます。新規事業を立ち上げて、軌道に乗りそうなところで、また別に移る。刺激を求めているのかもしれませんし、それを専門職としているのであれば、それでも構わないでしょう。
しかし、だからといって、腰を据えて1つの組織を大きくしていくマネジメントを軽視しないでほしいのです。『組織』の中に『個人』がいます。この関係性は、切っても切れません。『組織』と『個人』が、横並びになっているわけではありません。そこが勘違いのもとです。私は、キャリアを重ねていく上で、『帰属意識』は必要だと考えています。合理的にも、感情的にも、どちらの面でもメリットがあります。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言われますが、ビジネス上の付き合いは、本当に切れやすいものです。
だからこそ、『同じ会社にいる』、『同じ集団にいる』ということの価値は上がります。あまりに個人の力か注目されすぎました。1人で何でもできるように思いすぎています。集団への貢献より、個人の利益が優先されています。チームが優勝するより、自分のホームラン数が多い姿に惹かれるのでしょうか。個人プレーがよしとされる。それにより、全体が負けることが起こっています。しかし、いかなるときも、チームのために活躍する姿のほうが素購らしい」(254ページ)
安藤さんがご指摘しておられる、「『あなたがいないと困る』と言ってほしいという欲望」は、ほとんどの人がお持ちだと思います。その結果、これも安藤さんがご指摘しておられるように、ベンチャー企業を渡り歩き、物足りなさを感じる人もいるのでしょう。でも、そういう人なら、まだ、ベンチャー企業を大きくしているわけですから、ある面で能力のある人なのだと思います。
中には、実際には、あまり会社には貢献していなにもかかわらず、組織に所属しているからこそ部下や取引先が尊重してくれているだけなのに、「自分は有能な人材だ」と思い込んでいる、いわゆる「働かないおじさん」のような人もいるでしょう。でも、もし、本当に自分が有能なのであれば、自分ひとりで事業活動をするべきではないかと思います。もちろん、芸術家や作家のような、個人の能力が評価されている人たちは、まさしく個人の能力で勝負しています。でも、ここで論じたいのは、一般的な事業活動であり、それは個人でできないこともありませんが、事業規模は極めて限られるでしょう。
これについて、安藤さんは、野球チームを例に出していますが、個人の成績を優先してホームランばかり狙う選手より、チームの成績を優先してチーム内での自分の役割に徹する人が評価されることは、ほとんどの方が理解されるでしょう。このような組織活動の効果については、作家の岩崎夏海さんの大ヒット小説、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読むと、より理解が深まると思います。
この小説は、多くの方がご存じのように、東京都立程久保高校の野球部の女子マネージャーが、ドラッカーの理論に基づいてチームを改善していく物語です。具体的には、選手としての才能が高いことからキャプテンを務めていた選手からキャプテンの役割を外し、プレーに専念させることで、より実力を発揮させることができるようにしています。その一方で、補欠選手でありながら、ムードメーカーの選手をキャプテンに就かせることにより、チームの雰囲気を改善し、前向きに試合に臨めるようにしたことも、成績の向上につながっています。
確かに、個人はある面で自分を犠牲にして組織に貢献しなければなりませんが、それと同時に、組織に帰属しているからこそ自分の実力を発揮できる場所を得ることができます。それにも関わらず、「自分がいるからこのチーム(会社)はよい成績(業績)を得ている」と考えることは、誤りと言えます。とはいえ、人はどうしても慢心してしまいます。でも、個人と組織は対立する関係ではなく協力する関係にあると考えるべきです。そうすることが、個人にとっても、組織にとっても、最大の成果を得ることにつながあるということを、組織に加わっている人は認識すべきでしょう。
2025/1/11 No.2950