[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、「トップダウン」にネガティブなイメージを持っている人は少なくないものの、意思決定はトップダウンで行われ、情報提供はボトムアップで行われることは組織の原則で、両者は表裏一体であるということです。そして、その裏付けとして、意思決定を行う立場の人はその地位に応じた責任を負うことになりますが、意思決定をしておきながら責任を負わない人もいることから、トップダウンにネガティブなイメージを持たれることが起きると考えられます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、企業理念のない会社も存在することがありますが、そのような会社は、社長が従業員に対して、「利益が出れば何をしてもいい」としか伝えないので、ゴールが見えないまま事業活動を続けることになり、いつかつまづくことになるということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、組織運営にはトップダウンの側面とボトムアップの側面があるということについて述べておられます。「たとえば、私たちの会社では、現時点で35,000社以上のクライアントがいます。そうすると、そのクライアント数を目当てに、次のような依頼がきます。『その35,000社に、ウチの法人向けの新サービスを販売しませんか?契約が成立すれば、売上の20%を御社に還元します』このような依頼です。
これを受けると、たしかに一定の売上につながります。しかし、企業理念と照らし合わせると、『識学を1日でも早く世に広める』という、本来の会社の目的に近づくわけではありません。だから、『それはやりません』という判断が下せます。どんな会社を目指すのか、どんな組織になりたいのかは、そうした判断につながってくるのです。その責任を、人の上に立つ人は求められます。そして、現場の社員やスタッフは、そこに従わなくてはいけません。
後になってから、『だから、あのとき、会社は新サービスを導入しなかったのか』と遅れて腹落ちするはずです。企業理念に反発する理由のひとつに、『トップダウンはよくない』という勘違いがあります。『あなたの会社は、トップダウンか、ボトムアップか』という質問がよく聞かれます。しかし、この質問自体が根本的に間違っていることが、本書を読んでいただいたら、理解できるでしょう。意思決定は、上から下におこなわれます。ただし、下から上に情報をあげることは正しい。これがマネジメントの真理です。
要するに、トップダウンの側面もボトムアップの側面もあるということです。1枚の紙に表裏があるように、会話には話すことと聞くことがあるように、トップダウンとボトムアッアは、つねに表裏一体です。ただし、ボトムアップによって集まった情報に基づいで、意思決定をするのは、人の上に立つ人です。そして、その決定は絶対です。なぜなら、責任を負っているからです。責任がない人が、決定したり、判断したりすることは、物理的にできないのです。ここまで読んできたあなたになら、その理由は明確でしょう」(226ページ)
安田さんがご指摘しておられるように、「トップダウン」という言葉にネガティブなイメージを持っている方は少なくないと私も感じています。恐らく、トップダウンには、ワンマン経営者が独善的に意思決定をして、それを部下に従わせるというイメージがあるからでしょう。事実、そのような経営者もいるでしょう。しかし、日本の中小企業、いわゆる、オーナー会社でトップダウンでない会社はほとんどないでしょう。オーナー会社では、会社のほとんどのことを、オーナーである社長が決めています。
ただ、ワンマン経営者から理不尽な指示を強引に押し付けることがあると、「この会社はトップダウンだから仕方がない」と渋々承服することになるので、トップダウンにネガティブなイメージを持ってしまうのでしょう。しかし、トップダウンには、安藤さんも「責任を負っているから」とご指摘しておられるように、権限の重さがともなっているわけですから、極めて合理的です。とはいえ、安藤さんもこのような当然のことをあえて本に書いているということは、実際には、トップにいる人が責任を果たしていなかったり、または、判断しなかったりしている経営者(または、管理職)が少なくないということなのでしょう。
2025/1/9 No.2948