[要旨]
ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんは、業績不振の会社の経営者に、「従業員が船の乗組員であるという自覚を持っていれば、会社が難関に陥ってもそれを切り抜けようとして力を出しますが、乗客のような気持ちのままでいると、誰かが何かをやってくれるのを待っているだけになる」と助言したそうです。しかし、その経営者は、部下に対して、「乗客ではなく乗組員としての自覚を持たなければならない」とだけ伝えたそうですが、横田さんは、その社長自身も乗客の気持ちのままなのではないかと考えたそうです。
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今回も、前回に引き続き、ネッツトヨタ南国の相談役の横田英毅さんのご著書、「会社の目的は利益じゃない-誰もやらない『いちばん大切なことを大切にする経営』とは」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、横田さんの知人の経営者の方の中に、自社の業績が悪いのは幹部従業員に原因があると考えている人がいたそうですが、横田さんは、すベて人のせいにしていると、自分が変わっていくことができなくなるので、経営者は会社に問題があれば自分に原因があるととらえ、解決を図っていくことが求められるということについて説明しました。
これに続いて、横田さんは、経営者も従業員も経営者感覚を忘れてはならないということについて述べておられます。「以前、講演で話し終えた後に、ある製造業の経営者から、『最近、景気が悪く、業績も今ひとつで、社員が暗くなって困っています、どうしたらいいでしょうか?』と質問されたことがあります。私は逆に、こう尋ねました。『あなたの船が順風満帆で航海しているときは、乗組員がみんな明るくて元気だった。しかし、嵐が起きて、船が沈没するかもしれないとなったらみんな元気形なくなったということですね。それはいったいどうしてでしょう?』
質問者からの答えは、そのときはありませんでした。しかし、その経営者はずっと考えていたのでしょう。講演後の懇親会で私のところにやって来て、『横田さん、先ほどのお話、よくわかりました』と言ってくれました。あのたとえでわかってくれたのです。後に、この話を別の経営者にしたところ、『それはいったいどういうことなんですか?』と、理解できない様子だったので、謎谜解きをしてあげました。
『それは、まずは船長が暗くなっているのではないですか、ということです。追い風で順調に走っているときは、船長のご機嫌がいいので、みんな二コニコして元気があった。ところが不景気になったら社長がまっさきに暗くなったため、社員もみんな暗くなって元気がなくなってしまった。要するに、その会社の社員は乗組員ではなく、乗客のつもりだったんでしょう。乗組員だったら、難関を切り抜けようとして力を出しますが、お客さんだったら暗くなって、誰かが何かをやってくれるのを待っているだけです。会社の社員がお客さんのつもりでは、それは元気もなくなりますよ』
すると次の日、その社長さんからメールが届きました。『昨日、横田さんからうかがったお話を、朝礼で全社員の前で話しました。“社員は乗組員でなければならない、乗客であってはならない”と言って檄を飛ばしました』その人は自慢げでしたが、実はこれもまた、おかしな話なのです。社員を乗組員ではなく乗客にした責任は誰にあるかといえば、社長です。それなのに『社員は乗客であってはならない』と当人が言ったらこれはまずいでしょう。ところがその矛盾に、社長は気がついていないのです。つまり、社長までもが乗客だったのかもしれません。これではその船は、沈没してしまいかねません」(156ページ)
私が、かつて、銀行に勤務していたとき、渡世術だけで出世したような支店長の下で働いたことがありました。その支店長は、融資実務の経験がほとんどないために融資判断が苦手だったようで、自らの責任で決裁することを避ける傾向にあり、顧客から融資の申し込みがあってもあまり積極的には応じませんでした。そのため、顧客からの評価が悪く、部下である私たちは、常に、顧客のフォローに追われていました。そんな支店長が、ある日の朝礼で、大企業病について話を始めました。
「昨日視たテレビ番組で、大企業病についてお話をしていて、なるほどと思いましたので、皆さんにもその内容をお伝えしたいと思います。まず、大企業病にかかっている人の第一段階は、顧客からかかってきた電話を社内でたらいまわしにするようになるそうです。第二段階になると、会社に出勤さえしていれば定年まで安泰だと考えるようになるそうです。そして末期的症状の人は、自分が大企業病にかかっているという自覚がなくなるそうなので、君たちも気をつけるようにしてください」いうものでした。ところが、その話を聴いていた私たちは、「支店長自身が、大企業病にかかっていることを自覚していない、末期的症状にあるということを、自ら示しているのでは?」と、笑いをこらえていました。
しかし、冷静に考えれば、私はその支店長を笑うことができるのかというと、私自身も自分で気づかないうちに、自分を棚に上げて他者を批判したり、他者に責任を押し付けていたりしているかもしれないのではないかとも思うようになりました。ビジネスパーソンとしては、常に、問題点はどこにあるかを注意深く探り、迅速に対処していかなければなりません。その際に、自分自身にも問題点はないかということを忘れないようにしなければなりません。それが、自分が「乗客」ではなく「乗組員」であるということを忘れないようにする方法だと、改めて感じました。
2025/11/5 No.3248
