鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ドイツでは黒字でもアメリカでは赤字?

[要旨]

1998年に、アメリカのクライスラーとドイツのダイムラー・ベンツが合併した際に、ダイムラー・ベンツはドイツの会計基準では黒字だったのに、米国の会計基準では赤字だったことが問題視され、会計基準を世界で統一しようという動きが加速しました。日本では、2022年10月時点において、連結財務諸表に関しては、日本基準、米国基準、IFRS、修正国際基準の4つの基準から任意の基準を選ぶことができます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会計制度には、大きく分けて、財務会計管理会計がありますが、財務会計は、主に、株主などが、利益を配分するための情報を得ることを目的として、一定の規則に基づいて作成され、管理会計は、経営者が経営判断を行うために、事業の性質に合わせて任意の方法で作成されるものであるということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、国際会計基準について述べておられます。「1998年に、アメリカのクライスラーとドイツのダイムラー・ベンツが合併しました。『世紀の大合併』と言われた合併はその後再び袂を分かつことになりますが、合併の際、会計基準に関して非常に象徴的なことが起きました。ダイムラー・ベンツはドイツの会計基準では立派な黒字でしたが、合併に際してアメリカの会計基準で決算し直したら大幅な赤字になったのです。実態は何も変わっていないのに、会計基準が変われば会計情報はこうも変わるのです。これでは困りますので、その後、会計基準を世界で統一しようという動きが加速しました。

そして誕生したのが、IFRS(International Financial Reporting Standards)です。日本語での正式名称は国際財務報告基準ですが、国際会計基準という名称がむしろ一般的になっています。IFRSは、2005年にEU諸国に強制適用されたのを皮切りに、世界中で急速に採用が進み、EU諸国の他、力ナダ、オセアニア、中国、インド、韓国、ASEAN諸国、アフリカ諸国など、世界の主要国のほとんどがIFRSを採用するに至っています。

逆に、IFRSを正式に採用していない主要国はアメリカと日本だけです。かくして、現在、世界に存在する3大会計基準は、IFRS、米国基準、日本基準ということになります。アメリカはIFRSを正式に採用していないと言いましたが、実はアメリカはもっと大きな世界を見ています。アメリカは米国基準とIFRSの統合を狙っていて、具体的に作業も着々と進めています。そういう意味では、日本だけが主要国の中で孤立しているというのが実情です。

先ほど、日本基準を3大会計基準の1つに数えましたが、そういう言い方をするのはおそらく日本人だけです。日本基準は、今や、日本人にしか使われず日本国内でしか通用しない超マイナーな会計基準ですので、『3大会計基準の1つ』などという言い方は相当おこがましい気がします。日本の状況を少し補足しておきましょう。実は、日本も『全上場企業にIFRSを強制適用する』と言っていた時代がありました。その通りに話が進んでいれば、2015年には日本もIFRS採用国になっていたはずなのです。

なぜ、2015年だったかと言うと、アメリカが2014年に全上場企業に強制適用すると言い出したからです。ところが、その後しばらくしてアメリカが強制適用の方針を取り下げました。それを見た日本の当局は、アメリカの方針転換発表の翌月、日本も強制適用を見送ると発表しました。要するに、日本は会計基準に関してアメリカの顔色ばかり見ていて、全く主体的に判断してこなかったのです。一方で、日本では2010年からIFRSの任意適用が認められています。要は、『やりたい会社はどうぞ』ということです。

さらに金融庁は、IFRSの中でどうしても気に入らない部分を修正した“日本版IFRS”とでも言うべき修正国際基準(Japan’s Modified International Standards:JMIS)なるものをつくり上げました。日本が勝手に修正したものを『国際基準』と呼ぶのもすごい話ですが、当然のことながら、国際的には国際基準としては認められていません。かくして日本は、2022年10月時点において、連結財務諸表に関しては日本基準、米国基準、IFRS、修正国際基準の4つの基準から好きな基準を選んでいいという世にも珍しい国になっています」(25ページ)

日本の中小企業は、今後、IFRSがどのように影響するのかということについては、まったく影響しないとは思わないですが、しばらくは従来のままとなると思います。本旨からそれますが、日本の中小企業の中で、「中小企業の会計に関する指針」(中小会計指針)に則って会計報告を行っている会社自体が少ないので、仮に、中小会計指針が、IFRSに近づいて変更されても、それに従う中小企業は少ないと思います。

私は、IFRSについては詳しくないので、このようなことを断定的に述べることはあまりよくないのですが、現在の日本の会計慣行に大きな問題点があるかというと、それはあまりないので、日本の会計基準を変えなければならないとすれば、その理由は、国際的に統一するかどうかというものでしかないと思います。そして、現在、日本の中小企業が会計に関して対応しなければならないことは、IFRSの影響にどう対処するかということよりも、まず、中小会計指針に則って、より正確な会計記録を行うことに努めることだと考えています。

話を戻すと、ダイムラー・ベンツが、ドイツの会計基準では黒字だったのに、米国の会計基準では赤字だったという事例は、会計基準の特徴をあらわすものだと思います。私は、同社の事例については、なぜ黒字会社が赤字会社になったのか、理由は把握していないのですが、現在、日本の会計基準とIFRSの間では、のれん代やリース取引の考え方に違いがあり、近年の複雑化している経済取引をどのように記録するかで見解が分かれています。

これについては、どれが正しく、どれが間違っているかということは明確にしにくい点があり、正確に記録することも重要ですが、一方で、複雑化することにともなう簡便性の欠如も問題になるので、両者をどこで折り合いをつけるかということになるでしょう。そして、繰り返しになりますが、日本の中小企業では、あまり複雑な会計取引はほどんど行われないことから、私は、日本の中小企業はしばらくの間はIFRSの影響は受けることがないと考えています。

2025/4/5 No.3034