[要旨]
ビジネスコーチの秋山ジョー賢司さんは、経営者の多くは、表向きは現状を改善しなければならないと口にしているけれど、心の深いところでは、本当の問題に向き合うことを避けようとしているとご指摘しておられます。これは、経営者が改善活動を成功させる自信がないことが原因と考えられますが、確実に改善活動を遂行するために、真の問題を見失うことなく、それを直視して改善活動に臨まなければなりません。
[本文]
ビジネスコーチの、秋山ジョー賢司さんのポッドキャスト番組を聴きました。番組の中で、秋山さんは、秋山さんがクライアントをコーチしたときのご経験についてお話ししておられました。具体的には、会社経営者であるクライアントから、「部下が自律的に動かないことに悩んでいる」と相談されたことに対し、秋山さんが、「部下に明確な指示を出していますか」と質問をしたところ、そのクライアントは、「自分が部下に対して明確に指示を出さないことが問題だったのか」と得心してしまったそうです。
しかし、秋山さんは、本当の問題は、部下が自律的に動かないことであって、指示の出し方が明確でないことではないのに、本当の問題がクライアントの頭の中から消えてしまったと述べておられます。そして、そうなってしまう要因として、経営者の多くは、表向きは現状を改善しなければならないと口にしているけれど、心の深いところでは、本当の問題に向き合うことを避けようとしていることが挙げられると、秋山さんは述べておれます。
私も、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から、同様のことを感じています。例えば、ある経営者の方が、「銀行がなかなか追加融資に応じてくれないから、自社の事業が改善しない」という不満を口にしていました。そこで、私が、「それでは、もし、銀行が追加融資をしてくれたら、どのように事業展開をするのですか?」と質問したところ、その経営者の方は、単に、今までよりも事業拡大ができるとしか回答しませんでした。
もちろん、この回答はあまり論理的ではありません。そして、この経営者の本心は、本当は事業そのものを改善しなければ業績も改善しないことが分かっているものの、自分にそれを行う自信がないから、事業改善ができない理由を、銀行が融資をしてくれないことにしようとしているのだと考えられます。もちろん、事業の改善は、失敗するリスクがともなうことから、なかなか踏み出す決断ができない、すなわち、現状維持バイアスが働くと考えることができます。
しかし、事業活動そのものがリスクとの戦いなのであって、業績の悪い会社だけが、改善活動のリスクを受けるわけではありません。業績のよい会社であってもリスクにさらされているわけですから、現状維持バイアスは、改善活動を実践できない本当の原因ではないと考えられます。したがって、業績不振の会社が改善活動に踏み出すことができない本当の理由は、前述の通り、経営者の方の保身であると、私は考えています。もし、改善活動を実践しても、業績が改善しなかったら、自分の能力の低さが露呈してしまうので、それを避けたいと考えているのだと思います。
とはいえ、私も含め、多くの人たちは、こういった消極的な考え方を持つことは自然なことだと思います。ただ、経営者という責任の思い立場が、その消極的な考え方を許さないのだと思います。だからこそ、秋山さんも、問題の本質を見失わないようにすることが必要だと、ポッドキャスト番組で述べておられるのだと思います。したがって、改善活動に関して、なかなか決断ができないでいる経営者の方は、秋山さんの示唆を深く理解して、今後の事業活動に臨むことが大切だと思います。
2025/3/24 No.3022