鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経営者は属人化を壊す存在であるべき

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、会社では、しばしば、「自分だけが活躍し、他の人が追いつけないような状況をつくる」という属人化が起きますが、それは、その方が個人はトクであり、自然な状態だということです。そこで、経営者は、そのような属人化が起きないよう、働きかけることが重要な役割であるといえます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、人間の脳や体は、もともと、勉強や仕事をするようにつくられていないので、例えば、100人の従業員がいれば、そのうち10人くらいは自主的に努力をするものの、残りの90人は自主的に努力をしようとはしないことから、下位90人に対しても上位10人を基準に組織を運営するよりも、下位90人に合わせて仕組みを作り、全員を活かすようにしたほうが賢明であるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、経営者は仕事の「属人化」が起きないようにしなければならないということについて述べておられます。「人は、放っておくと、『属人化』します。それは、本能だからです。(中略)自然な状態なのです。自分が活躍し、他の人が追いつけない状況をつくったほうが、個人はトクをします。(中略)たとえば、10人の営業を束ねているマネジャーがいるとしましょう。そのチームで売上を達成することが、マネジャーの役割です。

社内のルールで、『飛び込み営業は禁止』にしているとしましょう。しかし、そのマネジャーが治外法権をしてしまうのです。『社内のルールでは禁止になっているが、売上目標を大きく上回るために、飛び込み営業をOKとします』などと伝え、独自のマニュアルを用意してしまいます。ここまで大胆ではなくても、各個人に『上には内緒でいいからさ』と、小さいレペルで組織に背くことぐらいはあるのではないでしょうか。そうやって、メンパーを囲い込むのも、放っておくとやってしまう『属人化』の悪い例です。

度々、食品偽装がニュースになりますが、それは、こうしたマネジャーの属人化した管理がエスカレートしてしまったからです。その後、良心の呵責に堪えかねたメンバーによる『密告』によって、それが判明し、『責任をとって辞める』、『会社の信頼を下げる』という末路を迎えるのです。マネジャーは、属人化を壊す存在でないといけません。自然状態になるプレーヤーを、仕組み化する立場です。数字で管理する。ルールを決める。すベて、自然に逆らって社会を形成することが前提になっています。

これを否定する人もいるでしょう。『成長しなくてもいい』と決めている人です。そういう人は、人の上に立ってはいけないのです。自然状態を認めるマネジャーは、一見、優しいように見えるかもしれません。しかし、個人や会社の成長を止めている存在です。優しさの裏側は、残醋です。何も言わない人は、優しいからではありません。見捨てているのです。その精果、プレーヤーは自然状態になり、マネジャーは既得権益を享受します。それを食い止めるための『仕組み』が必要なのです」(57ページ)

安藤さんがご指摘のように、経営者や幹部職員は、仕組みづくりをするという重要な役割があることは誰でも容易にご理解できると思います。しかし、仕組みづくりをしなかったり、「成長しなくてもいい」と考えてしまう人は少なくないというのも現実でしょう。では、そのように考えてしまう人がいる理由として考えられることは、短期的な業績を求めてしまうからだと思います。すなわち、仕組みによって業績を高めなければならないことが分かっていても、仕組みづくるには労力と時間を要することから、それを避けて、安易にとにかく業績を高めればよいと考えてしまうのでしょう。

では、経営者がそうならないようにするためにはどうすればよいのかというと、それは、経営者が仕組みづくりというプロセスを重視するという単純なことしかないと、私は考えています。そこで、私は、バランススコアカード(BSC)の導入をお薦めしています。BSCは、業績を高めるために、短期的な財務目標のほかに、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点での目標を設定しているからです。そして、非財務の目標を達成させることを通して、財務的な目標も達成できると考えて活動をします。

もちろん、繰り返しになりますが、このような活動によって業績を高めることは、時間と労力を要します。しかし、短期的な財務目標だけを追求していれば、すぐに息切れをしてしまい、事業は長続きしません。事業は半永久的に続くようにしなければあまり意味はないわけですから、私は、正にBSCの考え方に基づく働きかけこそが、経営らしい活動だと思っています。何度も繰り返しますが、短期的な目標は、ある意味、誰にでもできることです。でも、事業活動が長期的に継続できるようにすることこそが、真に能力のある経営者らしい経営と言えるでしょう。

2024/12/26 No.2934