[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、例えば、Apple社は創業者のジョブズ氏の優れたアイデアで成功したと考えられがちですが、同時に、それを実現させるための優れた組織があったからだとご指摘しておられます。すなわち、事業を成功させるためには、アイデアと仕組み化された組織の両方が大切だということです。
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人材派遣会社のジェイコム(現ライクスタッフィング)の元取締役営業副本部長で、現在は株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を拝読しました。同書で、安藤さんは、仕組み化は問題解決のために重要であるということについて述べておられます。「いかなるときも『仕組み』に目を向け、問題を解決していく姿勢は、必ずあなたを救ってくれます。まずはその理由について、述ベていきましょう。『仕組み化』と聞いて、まず想像するのは、ビジネスモデルの話でしょう。
商品やサービスをいかに生み出し、どうやって広げていけばいいのか。そういう戦略のことを想像するかもしれません。しかし、本書でお伝えしたいのは、ビジネスモデルの話ではありません。あくまで『人』をどう動かすか、という本質的な話です。ビジネスモデルは、ケーススタディになった瞬間に古びます。どんなビジネスモデルであれ、結局、最後は『人』が重要になってきます。1人1人が何に集中するのか。どういう改善に取り組むのか。
その差が積み重なって、ビジネスはうまくいきます。日本では、アップル創業者のスティープ・ジョプズ氏の成功論がよく語られます。『想像力が大事で、いまここにないものを新たに妄想できるから、アップルは成功した。だから、枠にとらわれずに、自由な発想で仕事に臨まないと価値を生まない』そのように称賛されます。しかし、ここには、1つの要素が欠けています。たしかに、ジョプズ氏は優れたアイデアを持っていました。
しかし、そのアイデアを実現させるためには、『言われたことを貫徹する」という徹底的な規律が必要です。速やかに行動に移し、試行錯誤し、改善していく『組織』が大事です。『アイデア』だけではなく、仕組み化された『組織』があって初めて、両輪となる。それなのに、組織の話には華やかさがないためか、スポットライトが当たることがありません。派手なアイデアや個人のカリスマ性ばかりに目がいってしまうのです。
ここであなたに確かめてほしいのは、『歯車』として生きる覚悟についてです。『あなたは社会の歯車です』という言葉を聞いで、どのように感じるでしょうか。『歯車なんて絶対に嫌だ』『もっと自分らしくありたい』『個として認めでもらいたい』『替えが利くのではなく、自分がいなくなったら困ってほしい』そのように反発するのではないでしょうか。個人の時代と呼ばれ、そのような考えを持つ人が増えました。子どもの頃は誰しも、『自分が中心になって世の中が動いている』という考えを持つそうです。
自分の目に見えていないものは存在せず、自分が世界の主人公のように感じて生きています。やがて、大人になる過程において、徐々に『世の中は自分中心で動いていない』ということを学んでいきます。自分がいなくても、何事もなく世の中が回ることを知り、そこで一度、絶望感を味わうはずです。しかし、その事実を受け人れて、さまざまなことを諦めて、社会と折り合いをつけ、大人になっていきます。
鳥の群れやアリの巣を見てください。1羽1羽、1匹1匹が、見事に有機的に動き、大きな目的を果たしています。『どこの島に行けば、全員が暖かく豊かに過ごせるのか』『何をどこに運べば、アリの巣の全員にエサが行き届き、繁栄するのか』組織全体の大きな利益を、本能的に得ようとしているはずです。そして、それぞれがその役割を果たしています。これを見て、『群れの一部になりたくない』と反発するのか。
あるいは、この仕組みを知り、大きなことを成し遂げたほうが自分にとつての利益につながると思うのか。『歯車』になることとの力に気づき、いったん受け入れた人から、成長ははじまります。任された機能を果たし、ゴールヘと迷わず進むこと。行動の後に、きちんと評価を受けること。その評価をもとに、試行錯誤をすること。そうやって、ちゃんと『歯車』になるということの重要性を再認識してみてください。その組織の中で求められている役割を理解し、自分自身も仕組みの一部に組み込まれるのです。
そのスキルさえあれば、じつは、どこに行っても活躍できるようになります。どんなビジネスモデルでも通用する人に成長できます。逆説的ですが、自分が替えの利く人であることを認めた人が、社会で活躍できるようになっているのです。そうなることこそが、社会人としての成功です。あるいは、そういう部下を育てることが、リーダーや上司の成功です。さらに、そんな組織をつくり上げることが、社長や経営者の成功とも言えます」(11ページ)
安藤さんもご指摘しておられますが、「自分は組織の歯車になりたくない」と考える方は多いと思います。それは、どんな人でも自分自身を尊重する気持ちを持っているので、当然のことと言えます。その一方で、人間は社会的な生き物でもあります。会社や国がその代表的な組織ですが、そういった組織がなければ人は生きていくことができません。では、人は生きていくために組織の歯車に組み込まれなければならないということなのでしょうか?
これについては、人によって考え方はさまざまだと思いますが、私の考え方は「Yes」です。ただし、「歯車」という言葉が非個性的というネガティブなイメージがあるので、「自分は組織の歯車ではない」と考えたくなる気持ちになることもあると思いますが、大きな機械も歯車ひとつが抜ければ動くことができなくなるわけですから、「歯車」になることは決してネガティブなことではありません。ちなみに、私が経営学を学んだ時、経営学は、組織と個人のバランスが主要なテーマであると教わりました。組織は個人を必要とするし、個人は組織を必要とします。
組織が個人を犠牲にし過ぎては組織は成り立たなくなるし、個人が組織を犠牲にし過ぎても個人はメリットを得ることができません。そこで、両者をどこでバランスさせるかがリーダーの大切な役割であり、その答えを見つけることが経営学の目的です。確かに、今、ブラック企業やパワーはラスメントといった、組織に対する悪いイメージが多いことも現実です。しかし、私は、それは、組織をどうやってうまくマネジメントするか、それを学んでいる人が少ないからだと考えています。
2024/12/21 No.2929