[要旨]
経営コンサルタントの中村真一郎さんによれば、会社が利益を計上すれば納税額が増加することもあり、それならば、思い切って事業拡大や成長に投資した方がいいということです。すなわち、利益を先行投資に回して、繰り延べして未来にお金をずらすことは、賢明なやり方だということです。そして、的確にこのような判断を行うことができるようようにするためにも、経営者は、会社のお金がどう動いているのかを把握できるようにしなければならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの、中村真一郎さんのご著書、「悪いこと言わないから『起業』はやめておけ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中村さんによれば、役員が会社から借入をしていたり、逆に、会社が役員から借入をしている会社も、銀行からは評価されないので、資金繰表による資金管理によって、役員間との資金の融通をしなくても済むようにすることが大切ということについて説明しました。
これに続いて、中村さんは、会社は赤字を計上することになっても事業を拡大することが大切ということについて述べておられます。「会社が成長している時の『赤字』は決して悪いものではない。これが私の持論である。これも、会社のお金がどう動いているか、どう流れていくかを把握していれば、納得できるはずだ。会社が成長して利益を上げている時、それをずっと溜め込んでいくとどうなるか。当然、税金を支払うことになる。
法人の所得税率は35%だが、実際には『魔の10%』と呼ばれる消費税の支払いもある。つまり、利益の45%は税金を支払わなくてはならないということだ。となると、利益が出れば出るほど、資金繰りは苦しくなる。それならば、思い切って事業拡大や成長に投資した方がいい。投資とは、言い換えれば『利益の繰り延べ』である。その投資が将来的に5倍になるか、10倍になるかは、その時点ではわからない。ただ、投資を続けて赤字になれば、税金は発生しない。
そして、事業は成長・拡大する。そして、その投資をストップすればポンと利益が出るわけだ。当然、単純に売上が上がっていない状態での『赤字』は危険信号だ。しかし、利益を先行投資に回して、繰り延べして未来にお金をずらすことは、賢明なやり方だと私は考える。銀行から資金を調達するために、あえて利益を出す。それを戦略的に行っているのであればいいだろう。しかし、それが見込めないのであれば、先行投資をして利益を抑えておくことを考える。
言い換えるならば、会社の売上や利益をどうコントロールするか、利益を出すのか出さないのかをしっかりと考えることも、経営者の仕事である。また、節税のために広告を打つ、という手段をとる場合もある。例えば、ベンチャー企業の場合、ずっと広告を打ち続けて赤字にしておいて、上場前の半年くらいで一気に利益を出して、V字回復させて見栄をよくする方法をとることもある。そうすると『この会社は成長している』と投資家が判断し、株価上昇につなげられる。
こういったことも、会社のお金がどう動いているのかを経営者が把握しているからこそできることである。経営者が『オレ、経理のことはわからないから』などと言っていたら、こういう会話は成り立たなくなってしまう。だから私は、『日繰り表を制するものは、経営を制する』と言いたい。私はほぼ毎日、全グループ会社の日繰り表をいまだにチェックしている。自社のキャッシュがどう動いているかを把握することは、経営者にとって最大の仕事だということを肝に銘じておいて欲しい」(96ページ)
中村さんは、「銀行から資金を調達するために、あえて利益を出す」会社があると述べておられますが、私は実際はそうではないと考えています。確かに、銀行は、信用格付けの最初の作業では、機械的に利益額で会社の格付を行いますが、実際の融資審査にあたっては、赤字の要因を分析します。そして、その赤字は構造的な赤字なのか、政策的な赤字なのかは、銀行の融資担当者なら、容易に判別できます。ですから、政策的に赤字である会社に対して、単純に、「貴社は赤字なので融資をしません」という判断をする銀行職員がいたとすれば、その人は銀行職員として失格だと思います。
中には、未熟な銀行職員がそのような判断をすることがあるかもしれませんが、そのような未熟な銀行職員はそれほど多くないと私は考えています。とはいえ、これ以外の部分については、私は中村さんと同じ考えです。会社が先行投資をするかどうかは、経営者の責任で主体的に行うものです。そして、その結果、一時的に赤字を計上することになれば、それは、きちんと経営者の意図でそうなったことをステークホルダーに説明することが、継続的な協力を得るために大切です。
もちろん、実際の事業活動は経営者の思う通りにならないことが多いということは確かです。だからといって、先行投資を含め、経営者がどのように事業展開をするのかを決めなくてよいということにはなりません。むしろ、経営者の意図するように展開するよう舵取りをすることが経営者の役割です。そして、その舵取りのために必要なツールが、資金管理を含めた管理会計であり、これを使いこなすことができなければ、しっかりとした会社経営ができないということは言うまでもありません。
2024/12/17 No.2925