鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

融資を受けると資金繰の真剣味が薄れる

[要旨]

経営コンサルタント中村真一郎さんによれば、起業時に融資を受けることは避けるべきであり、その理由は、(1)融資を受けることで資金管理の真剣味が薄れるてしまう、(2)融資を受けてまとまった資金があると、保険料や納税などの経常的な支出に充てられてしまい、すぐに底をつく、(3)事業が軌道に乗らないうちにまとまった額の負債を抱えることで、事業が失敗したときの負担が大きくなるということだそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの、中村真一郎さんのご著書、「悪いこと言わないから『起業』はやめておけ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中村さんによれば、一見相反するように見える、プラス思考と超マイナス思考の2つの考え方を併せ持つことができる人が経営者に最適であり、その理由は、プラス思考でなければ、ステークホルダーからの協力を得にくくなるのと同時に、事業活動においてはピンチにも遭遇するので、それに適確に対処するためには、用心深さも必要だからということについて説明しました。

これに続いて、中村さんは、改めて創業融資は利用しない方がよいということについて述べておられます。「なぜ、創業支援融資を受けた人が失敗してしまうのか?その理由は、大きく3つあると考えている。1つ目は、『真剣味が薄れる』ことだ。融資を受けて、300万円なり500万円なりのまとまった資金が手元にあれば、当面は安心だろう。しかし、資金繰りに対する『シビアさ』がどうしても薄れる。

売上と支払いの収支バランスを見て、やりくりしていくのが経営の第一歩。以前にも書いたが、『人に頼らず自分で稼ぐ』のが経営の基本であり、大前提である。それが身につかないうちにまとまった資金があると、そこに依存しかねない。ビジネスにおいて最も大切な資金に対する『バランス感覚』が育たなくなる。

2つ目は、『融資を受けても、予想以上に溶けてしまう』からである。事業が軌道に乗らず、売上が立たなければ、毎月何十万円、何百万円という金が出ていく可能性は大いにある。『500万円』と聞くと、多くの人にとって、大金のように感じるだろう。しかし、このくらいの資金はビジネスをしていれば、本当にすぐに溶ける。起業すると誰しも実感することになるが、保険料や税金はかなりの負担になる。このあたりの意識がまだ身についていない状態で融資を受けることは、得策だとは思えない。

3つ目は、『融資=借り入れ』だからである。当たり前のことを言っているように聞こえるだろうが、『融資』とは、いつかは返済しなくてはならないものである。創業時に500万円の融資を受けるということは、言い換えれば、『マイナス500万円からのスタート』ということだ。まずは事業を始めてみる。そして、うまくいくかどうかを見定める。その上で、『イケる』となったら融資を受けるということなら、話はわかる。しかし、最初から融資を受けて、言い換えれば借金を背負ってスタートした場合、事業が失敗したらもう『一巻の終わり』ではないのか?繰り返し格が、起業した人の9割は失敗する。

それにもかかわらず、なぜ、『自分は成功する』と信じられるのか。私は決して可能性を否定したいわけではない。だが、『冷静な目』を持つことが極めて重要だと言いたい。起業する、会社を経営するということは、決して甘いものではない。『絶対にうまくいくビジネス』はないし、『絶対に儲かる方法』もない。そんなものがあるなら、私が真っ先に知りたいくらいだ。起業家は、絶対に成功するという保証がない中で、皆、自分の道を切り開いているだけ。本当に自分にそれができるのかを自問自答して欲しい」(60ぺージ)

私の考えも中村さんと同じです。ただし、2つ目の理由については、私は別の視点から考える必要があると思っています。というのは、起業する人の多くは、ビジネススキルは高いものの、マネジメントスキルはあまり高くないか、または、未経験のようです。そうであれば、高い確率で「資金が溶けてしまう」ということになってしまっても不思議ではありません。でも、そのような人は、ビジネススキルさえあれば、事業は成功すると考えているのだと思います。

ただ、そのような方も冷静に考えればご理解されると思いますが、「経営=マネジメント」であるわけですから、経営者としての能力はマネジメントスキルがどれだけ高いかにかかっています。もちろん、経営者にビジネススキルは不要かといえば、中小企業においてはとても重要です。しかし、ビジネスは、必ずしも経営者が担わなければならないものであるのに対し、マネジメントは経営者でなければ担うことができないものです。

繰り返しになりますが、起業したばかりの経営者の方は、日々の業務に忙殺され、マネジメントが後回しになるという現実があることは理解します。でも、事業活動において財務管理を始めとした管理業務がしっかりと行われていなければ、それは、貨物船の船長が羅針盤を見ずに航海に出て、いつまでたっても目的地に荷物を届けることができないのと同じ状態です。したがって、これから起業しようとする方で、管理業務については経験がないという方は、財務管理全般ではなくても、少なくとも資金管理の方法を習得してから起業することが望ましいと、私は考えています。

2024/12/12 No.2920