鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

プラス思考と超マイナス思考を併せ持つ

[要旨]

経営コンサルタント中村真一郎さんによれば、一見相反するように見える、プラス思考と超マイナス思考の2つの考え方を併せ持つことができる人こそ、経営者に最適な人材だということです。なぜなら、プラス思考でなければ、ステークホルダーからの協力を得にくくなるのと同時に、事業活動においては、ピンチにも遭遇するので、それに適確に対処するためには、用心深さも必要だからということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの、中村真一郎さんのご著書、「悪いこと言わないから『起業』はやめておけ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中村さんによれば、技術や商品の知識はあるけれど、営業ができていない人が起業すると、失敗するケースが多く、これに対して、営業の得意な人を雇うことでカバーできると考える方もいますが、その営業マンが顧客を握ったまま他社に移るというリスクもあるので、最終的には、社長自身が営業しなければ、事業を軌道に乗せることは難しいということについて説明しました。

これに続いて、中村さんは、経営者はプラス思考と超マイナス思考を併せ持つことが必要だということについて述べておられます。「経営者に向いている人の特徴として『プラス思考』であることが挙げられる。しかし、それと同時に『超マイナス思考』であることもまた、経営者に必要な資質である。一見相反するように見える『プラス思考』と『超マイナス思考』のこの2つの考え方を併せ持つことができる人こそ、経営者に最適な人材だと私は考えている。経営者は自分のビジョンや夢を語って仲間を集めたり、出資者から金を集めたり、あるいは顧客から仕事をもらってきたりするのが仕事である。

となれば『自分の会社はこうなる』、『将来はこうしていく』という明るくポジティブな未来を描けなければ、魅力的な話もできないし、この人から買いたいとは思わない。また、経営をしていると、目の前が真っ暗になるようなつらいことに遭遇することが必ずある。『終わったかもしれない』と感じる時もあるだろう。そのような時にネガティブに考えていたら、心が病んでしまいかねない。ポジティブに考えて現状を打開することも大事なのである。

一方で、能天気なポジティブ思考だけでは、この厳しい資本主義社会を乗り越えていけるはずがない。起業家は常に『失敗するかもしれない』と思いながら事業を立ち上げるべき。これが私の考えである。しつこいようだが、起業をした約9割が失敗して会社をたたむのが現実である。どうして『自分の事業だけは絶対にうまくいく』と根拠もなく言い切れるのか、不思議でならない。起業家はポジティブに考え、夢やビジョンを大いに語ることも必要だが、それと同じくらい現実をしっかりと見据えて、失敗するリスクを見ながら頭をめぐらせ、経営を進めていくことが必要だ。

おかしな話に聞こえるかもしれないが『失敗する』と思って経営をしていれば、実際に『失敗する』可能性を下げることができる。『この事業は失敗してしまうかもしれない。しかし、想いやビジョンがあるからこそ挑戦する!』起業家としてこういう心構えは持って欲しい。そして、失敗しないために考えられるリスクは全て検討し、それを避けるために打てる手は全て打つ。超ポジティブ思考と超ネガティブ思考を併せ持って、起業を薦めていくこと。これこそが起業家、経営者には必要不可欠な頭の使い方だと私は思っている」(29ページ)

稲盛和夫さんも、「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」と述べておられますが、中村さんのご指摘もこれと同じ趣旨なのだと思います。そして、お2人のご指摘は、どの人にも容易に理解できることだと思うのですが、中村さんもご指摘しておられるように、「自分の事業だけは絶対にうまくいく」というバイアスを持っている人は少なくなく、その結果、「起業をした約9割が失敗して会社をたたむ」ことになっているのだと思います。では、起業しようとする人は、具体的にどのように事業活動に臨めばよいのかというと、私は、リスク管理を行うことだと考えています。

このリスク管理にもさまざまな活動がありますが、私が考える事業活動のリスク管理は、1か月のサイクルでPDCAを実践することです。毎月、10日までには前月の業績を把握し、計画との差異を確認して、未達成の部分について、直ちに、改善を行うということを繰り返して行けば、計画通りに事業を遂行する確率を高めることができます。もちろん、PDCAの実践だけですべてのリスクを回避できるわけではありません。また、リスクを回避する方法はPDCAだけではありません。

でも、「自分の事業だけは絶対にうまくいく」と考えている起業家の方が、PDCAを実践するだけでも、「失敗する9割の会社」になる確率が大幅に下がることは確実だと思います。また、起業したばかりの会社は、実践しなければならないことがたくさんあり、PDCAを行う余裕も少ないようです。そうであれば、まず、PDCAを実践してみることから始めていただき、それだけでは物足りないと感じたら、さらなるリスク管理に踏み出すというステップをとることをお薦めします。

2024/12/11 No.2919