鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『仕組み』づくりは経営者の社会的責任

[要旨]

ブリヂストン元CEOの荒川詔四さんによれば、会社に不祥事が起きると、株主をはじめとするステークホルダーに多大な迷惑をかけることになりかねないので、それを防ぐための仕組みをつくっておくことは、経営者の社会的責任だということです。例えば、定期的にジョブローテーションを実施して、「余人をもって代え難い人材」をつくらないようにするといった対応を行うことが大切ということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ブリヂストン元CEOの荒川詔四さんのご著書、「臆病な経営者こそ『最強』である。」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒川さんによれば、事業活動の現場のネガティブな情報がトップに報告されなければ、それが大きな不祥事につながってしまうので、そのようになることを防ぐためには、部下からよい報告を受けた時、「よい報告は必要ない、悪い報告でなければ報告とは認めない」と返事するなど、部下がネガティブな情報を報告しやすい企業文化を築くための働きかけを行うことが大切ということについて説明しました。

これに続いて、荒川さんは、経営者は、不祥事が起きにくい仕組みづくりを行わなければならないということについて述べておられます。「あるいは、不祥事が起きにくい『仕組み』をつくるのも経営者の責任です。もちろん、会社の公金を横領したり、取引先からリベートを得たり、そうした不祥事を起こした社員に対しては、社内規定に従って厳しく対処する必要はあります。そうすることで、社内に規律をもたらすことは、組織マネジメントにおいて不可欠であることは言うまでもないでしょう。

しかしながら、こうした不祥事を起こした社員の責任を追及するだけでは足りません。それと同時に、こうした不祥事が起きるような『仕組み』を放置していた経営側の責任も強く認識する必要があります。人間は弱い存在です。どんなに立派な人間であっても、魔がさす瞬間というものはあるはずです。であれば、たとえ魔がさしたとしても、不適切な行動をとることができない『仕組み』を、経営側の努力でつくっておくべきでしょう。例えば、『余人をもって代えがたい人材』をつくってはなりません。

なぜなら、定期的な人事ローテーションが組まれていれば、後任に不祥事がバレるリスクが高いため、不適切な行動を自ら抑止することが期待できるからです。ところが、『余人をもって代え難い人材』は人事ローテーションの外枠に置かれますから、抑止力が働きにくくなります。そのため、そのようなポジションにおいて、不祥事が発生しやすくなるのです。このようなリスクを発生させないためには、どんなに特殊な業務であったとしても、必ず人事異動の対象とし、複数の人材を育成することで、『余人をもって代え難い人材』に任せきりにしないような『仕組み』をつくっておくべきなのです。

これはほんの一例です。このような『仕組み』は、ほかにもいろいろ考えられるでしょう。一度、こうした不祥事が起きると、株主をはじめとするステークホルダーに多大な迷惑をかけることになりかねないのですから、そのような『仕組み』をつくっておくことは、経営者の社会的責任と言っても過言ではないのです」(229ページ)

ジョブローテーションを行うことは、不祥事を防ぐための基本的な対応です。しかし、中小企業では、(1)ぎりぎりの人数で仕事をしているので、ジョブローテーションを行うための余裕のある数の従業員を雇うことが難しい、(2)ジョブローテーションを行うと、従業員が定期的に新しい仕事を習得しなければならないので、そのための負担が発生し、仕事が滞ることがある、といった理由で、ジョブローテーションが行われることは多くないようです。

しかし、確かにジョブローテーションを行うことで会社や従業員の負担は少し増加しますが、(1)不祥事を防ぐことができる、(2)従業員が複数の仕事を覚えることができ、仕事の繁閑に合わせて柔軟な対応ができるようになる、(3)従業員が多くの仕事を習得することで、成長を感じることができたり、事業活動を俯瞰してみることができるようになる、などの利点があります。その結果、組織としての成果も大きくなります。

業績を高めようとするとき、多くの経営者の方は、売上を増やすという直接的な活動に目が向きがちですが、より高度な組織的な活動ができるようにすることの方が、長期的には大きな成果を得ることができるようになると考えることも重要だと思いまやや本旨から外れますが、荒川さんは「余人をもって代え難い人材」をつくる、すなわち仕事を属人化してしまうことを避けるべきとご指摘しておられますが、仕事を属人化してしまうことは、いわゆる「聖域」をつくってしまうことです。

この聖域は、時間が経てば経つほど、社長でさえ手を出すことができなくなることもあり、業績を下げる大きな要因になってしまうことは、ほとんどの方がご理解されると思いますので、やはり、このようなことにならないよう、ジョブローテーションを行うことは欠かすことはできないと、私は考えています。そして、このジョブローテーションはひとつの事例ですが、荒川さんが「『仕組み』をつくっておくことは、経営者の社会的責任」とまで述べておられるように、仕組みづくりはとても重要です。

繰り返しになりますが、多くの中小企業では、業績を高めるために、売上を増やすための直接的な活動にばかり目が向いてしまいがちです。しかし、本当に行わなければならないことは、仕組みづくりであり、この仕組みの完成度が高ければ、競争力が高まります。この仕組みづくりは、詳細な説明は割愛しますが、経営品質の規格であるISO-9001を導入することで実現できます。もちろん、ISO-9001の導入や、それを活用した事業活動を定着させることは容易なことではありません。

でも、よい経営をしようとする場合、少なくともISO-9001を実践できなければ、いつまでも成行的な経営から脱することはできないでしょう。ただ、いきなり今日からISO-9001を導入するということも難しいことも事実なので、よりよい経営をしようとしている経営者の方で、まだ、会社がISO-9001の認証を受けていない方は、ISO-9001に関連する書籍を読んでみて、それを参考にしながら、ISO-9001の考え方に基づく経営を実践してみることをお薦めします。

2024/11/28 No.2906