[要旨]
ブリヂストン元CEOの荒川詔四さんは、荒川さんがCEOの時、本社中枢が決めた計画を現場に割り振る仕組みと、現場が立てた目標を積み上げる仕組みをハイブリッドさせる方法で中期経営計画を策定していたそうです。こうすることで、子会社ごとに各年度の投資計画・人員計画など、具体的な施策を網羅し、時系列で並べた中期経営計画が策定され、最終的にはグループ全体で整合性のとれた連結計画をグループの幹部全員で共有することができ、これを、毎年、1年ずつ延長してローリングしていくことによって、あるべき姿に一歩一歩近づき達成することができるようになったということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ブリヂストン元CEOの荒川詔四さんのご著書、「臆病な経営者こそ『最強』である。」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒川さんによれば、事業計画に否定的な人もいますが、それは、事業計画をうまく使いこなせていないからであり、事業計画を作成するにあたって、経営と現場がコミュニケーションを深めるプロセスとして活用すれば、大きな効果をもたらすということについて説明しました。
これに続いて、荒川さんは、あるべき姿を事業計画で描き出すとよいということについて述べておられます。「とはいえ、私がやっていたのは決して難しいことではありません。むしろ、非常にシンプルなことで、その気になれば誰でもできることしかやっていません。出発点は、ブリヂストンのCEOである私が、会社の『あるべき姿』を描き出すことです。
その『あるべき姿』が、会社の構成員全員にとって魅力的なものであれば、たとえその実現のハードルが高かったとしても、みんなは高い達成意欲を持ってくれます。その上で、各子会社の置かれている現状を踏まえながら、それぞれのCEOが主体的に自社の『あるべき姿』を描き、それをもとに子会社ごとに『中期経営計画』を策定します。それを全部集めた上で、本社で全体の整合性をチェック。必要であれば、オーナーシップを持つ各子会社のCEOとしっかりとコミュニケーションをとって、合意を得ながら整合性をとっていくわけです。
こうして、子会社ごとに各年度の投資計画・人員計画など、具体的な施策をすべて入れ、時系列で並べた『中期経営計画』を策定した上で、最終的にはグループ全体で整合性のとれた『連結計画』を確定して、グループの幹部全員で共有。これを、毎年、1年ずつ延長してローリングしていくことによって、『あるべき姿』に一歩一歩近づき達成するという仕組みです。そして、この『中期経営計画』を勝手に変更することは、本社、各子会社ともに禁止。必要であれば、必ず協議し、お互いに納得した上で変更を加えます。
いわば、『本社中枢が決めた計画を現場に割り振る仕組み』と、『現場が立てた目標を積み上げる仕組み』をハイブリッドさせたと言えるかもしれませんが、私は、本来あるべき当たり前の計画のつくり方をしているだけだと思っています。なぜなら、ここでやろうとしているのは、要するに、経営側が魅力的な『あるべき姿』を描き、それに共感するメンバーが、オーナーシップを持ってそれぞれの仕事を進めるという当たり前のことを『仕組み』にしただけだからです」(177ページ)
荒川さんがご説明した中期経営計画はローリングプランのことのようです。このローリングプランについての説明は割愛しますが、ブリヂストンを始め、多くの会社が導入し、活用しているようです。そして、ローリングプランの特徴は、修正(ローリング)することを前提としている仕組みなのですが、ブリヂストン(に限らず、他の会社も同様と思われますが)の場合、その修正作業は、経営者が一方的に行うのではなく、各部門が参加して行うということです。
このことによって、各部門に当事者意識が高まり、また、計画を達成させようという意欲が醸成されます。事業計画について否定的な評価をしている方は、事業計画策定というと、机の上で行われる内向き作業であり、そのようなことをする労力は、もっと売上を増やすための直接的な活動に注ぐべきだと考えているようです。しかし、そのような活動ばかりをしている組織では、結局、トップダウンで指示が出されるだけの組織となってしまい、あまり組織的な活動はできなくなってしまいます。
しかし、本社と現場が関わって事業計画を作成するという作業を通して、その組織は組織的な活動が行われるようになります。したがって、事業計画を作成することは、事業計画というアウトプットを得るために行うものと考えるのではなく、会社が組織的活動ができるようにするためのプロセスと考えることが妥当であると、私は考えています。そして、荒川さんはその考え方でブリヂストンの競争力を高めていったようです。
2024/11/23 No.2901