鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ジョブ型雇用の人材は『戦闘力』が高い

[要旨]

ブリヂストン元CEOの荒川詔四さんによれば、ジョブ型雇用の人材を増やすと、会社の縦割化が進みますが、そのような人たちがもたらす成果は「戦闘力」が高く、会社の競争力を高めることができます。したがって、これからは、ジョブ型雇用による人材が必要とされるため、経営者には、そのような人たちをうまくマネジメントするスキルが求められるようになるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ブリヂストン元CEOの荒川詔四さんのご著書、「臆病な経営者こそ『最強』である。」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒川さんによれば、荒川さんがブリヂストンのタイ現地法人のCEOだったとき、他部署では疎んじられている人が部下として転任してきましたが、第二工場の建設を任せたところ、荒川さんの期待に応じて懸命に取り組んでくれた結果、先進的な工場を建設できたということについて説明しました。

これに続いて、荒川さんは、ジョブ型雇用された人材の戦闘力は高いということについて述べておられます。「極端なことを言えば、『ジョブ型雇用』システムを徹底すると、自分の『ジョブさえこなせばよい』という意識が支配的になる結果、それぞれの部署・担当者が『蛸壺化』するリスクもあるでしょう。比喩的に言えば、会社の仕事を個別の『ジョブ』に切り分けることによって、会社全体が『生命体』として機能する上で欠かせない『有機性』が損なわれる可能性があるということです。これは、『ジョブ型雇用』を採用する際には、経営的に十分に注意を払うべき問題だと思います。

ただし、私は、ヨーロッパなどで経営をしたときに、『ジョブ型雇用』がもたらすと思われる非常に重要なメリットも認識しています。ここに、欧米の従業員と、日本人従業員との明確な違いがあるとすら思っているのです。例えば、従業員に対して、ある課題についてのレポートを提出するように求めたとしましょう。すると、欧米の従業員の多くは、財務なら財務、法務なら法務、技術なら技術、PRならPRなど、それぞれが持つ専門性を突き詰めて、非常に尖ったレポートを作成します。

ただし、自分の得意分野については極めて深い検討を行うのですが、その他の領域のことについてはほとんど検討しません。そのため、『財務的にはそうだろうが、それでは法務的には問題がある』といった激論を引き起こすことが多いのです。その意味で、バランス感覚には欠けているきらいがあると言っていいでしょう。一方、日本人の多くは、自分の得意分野だけではなく、隣接する領域のことも、ある程度カバーした内容のレポートを作成します。

社内の他部署のことにも目配りをした、バランスのとれた内容になっているので、無用な軋轢を起こすことはありませんが、残念ながら、得意分野の掘り下げは弱い。いわば、裾野は広いけれど、標高は低い山のようなレポートなのです。そして、私が評価するのは欧米型のレポートです。理由はシンプルで、専門性を極めた尖ったレポート(事業提案)の方が、明らかに『戦闘力』が高いからです。つまり、実際に事業家されたときに、他社との競争において優位に立てる可能性が高いということです」(122ページ)

組織活動においては、軋轢が起きるようりも、調和することが大切と考える方が多いと思いますが、荒川さんは、あえて軋轢のある結果を求めています。その理由は、「戦闘力」が高いからということですが、それだけ、現在は経営環境が厳しくなっているということなのだと思います。同時に、それは、戦闘力の高い人材を、経営者が上手に活用できなければならない、すなわち、マネジメントスキルが高くなければならないということになるでしょう。ちなみに、ドラッカーは、1993年に出版した著書、「ポスト資本主義社会」で、次のように述べています。

「ポスト資本主義社会は知識社会であると同時に組織社会である。知識人の世界は管理者による均衡がなければ、みなが自分の好きなことをするだけとなり、誰も意味あることは何もしない世界となってしまう。管理者の世界も、知識人による均衡がなければ、官僚主義に陥り、組織人間の無気力な灰色の世界に堕してしまう。知識人には道具としての組織が必要であり、管理者は知識をもって組織の目的を実現するための手段と見る」(354ページ)

ドラッカーのいうポスト資本主義社会とは、文字通り、資本主義社会の後に来る社会のことで、すでに、現在は彼のいうポスト資本主義社会に入っているのではないでしょうか?そして、知識社会とは知識人の社会のことで、知識人とは専門性の高いスキルや技能を持った人のことです。すなわち、荒川さんのいうジョブ型雇用された人材を指すと言えます。一方、組織社会とは管理者の社会のことで、管理者とはマネジメントスキルを持った人のことです。

そして、ドラッカーの表現はややこしいですが、彼が述べたいことは、ポスト資本主義社会では、スキルの高い人が必要とされるが、スキルの高い人だけではまとまりがなくなってしまうので、同時に、マネジメントスキルの高い人が彼らの利害を調整することで均衡し、目的が達成できるようになるということなのだと思います。ですから、「ポスト資本主義社会」に入っている現在は、会社の競争力を高めて行くには、戦闘力の高い人材と、その人たちをまとめあげるマネジメントスキルの高い人の双方が必要ということです。したがって、これからの経営者は、調整能力やマネジメントスキルを高めることに、ますます注力していく必要があると言えます。

2024/11/18 No.2896