[要旨]
エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんによれば、上司の働きかけによって、部下が気づきを得ることができても、それに基づいた学びを実践しなければ、現実は変わることはないので、部下が気づいたことに基づいてどのように行動するのか、いつまでにそれを行うのかを部下に考えてもらい、本人の意思として実践させることで、能動的な活動ができるようになるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんのご著書、「最高のリーダーほど教えない-部下が自ら成長する『気づき』のマネジメント」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、鮎川さんによれば、ある職場で上司に反発する従業員がいたので、リーダーが腹を据えて彼女に仕事がうまくいかない理由について尋ね、それを改善することを約束したところ、彼女は自分が尊重されたことに喜び、それ以降、職場で言い訳をしなくなったということについて説明しました。
これに続いて、鮎川さんは、部下の気づきを学びとして明確にしたのち、それを実践するための行動計画を立てることが大切ということについて述べておられます。「『気づき』を『学び』として明確にしたら、実際に何に活かしていくのかを決めて『行動計画』を立てていきます。(1)何をやるのか、(2)いつまでにどこまでやるのか、(3)最初に何から始めるのか、(4)やると決めたことをいつまでにリーダーに報告するのか、これらについて合意します。どれだけ素晴らしい『気づき』や『学び』があったとしても、それを実際に行動に起こさなければ、現実は変わりません。
部下が気づいたことをどのように活かしていくのかが具体化し、いつまでに行っていくのか、部下が考え、本人の意思で行っていくようにすることで、やらされ感ではなく、自分がやりたいと自ら動いていくことが可能になってくるのです。つまり、あなたば部下本人が自分の意思で選択するのをサポートするのです。仮に、部下が決めたことに対して、『それでは間に合わないんじゃないか』思った時には、指摘すのではなく、部下に間に合うのかどうか確認して、部下の考えを聞くのです。
行動計画の具体例としては、『今週中に○○部の○○さんに、今回のプロジェクトについてどんな考えを持っているのか、率直な意見を聞きに行く』『今日、プロジェクトの意義について、自分で理解できていること、できていないことを整理して、明日、わからないことをプロジェクトマネージャーに聞きに行く。そして、今週末までに、一度、リーダーに進捗状況をメールで報告する』というように、何をいつまでにするのか、どのように報告するのかということを決めます。このように、部下からいつのタイミングで報告がくるのかを気にしなくてもいいように、その場で決めていくのがお薦めです」(166ページ)
ほとんどの経営者の方は、この鮎川さんのご指摘をご理解されると思いますが、実践することはなかなか難しいと考えておられると思います。というのは、仮に、行動計画を部下が自力で作成できるとしても、それを2人で確認と合意をしたり、定期的に進捗状況を検証したりするためには、経営者や幹部にある程度の労力と時間が必要になるからです。
また、仮に、経営者に時間があったとしても、「エースで4番」として活動するために経営者になったのに、部下の行動計画の検証をするといった、監督やコーチのような役割を行うことにはあまり関心がないということもあるかもしれません。しかし、私は、行動計画の合意や検証という活動を通して部下と接触することは、部下の成長を促すだけでなく、部下の満足度を高めることに大きく資するものであると考えています。
なぜなら、部下が手柄をあげたとき、それを時間をおかずに上司に報告して評価してもらうことができたり、仕事がうまく行かない時に上司に打開策を相談できたりするからです。そして、こういった経営者や上司と話できる機会を持てることは、部下は自分が尊重されているという認識を持つことができ、士気を向上させることにつながります。当然、どんな経営者の方も、会社の業績を高めたいと考えていると思いますが、そうであれば、従業員の方の士気を向上させることでそれを実現できます。
ただ、かつては、部下がそこそこしか仕事をしていなくても、経営者の方が力技で業績を高めるということができたかもしれません。すなわち、経営者が「エースで4番」として活躍し、チームを引っ張るというパターンです。しかし、近年はこのような方法は通用しなくなりつつあります。業績のよい会社は組織的な活動によって総合力で勝る会社です。そこで、行動計画の策定と検証というプロセスを通して従業員の方の士気を高めることが重要になっていると、私は考えています。
2024/11/10 No.2888