鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

部下を尊重すると上司も尊重される

[要旨]

エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんによれば、ある職場で上司に反発する従業員がいたので、リーダーが腹を据えて彼女に仕事がうまくいかない理由について尋ね、それを改善することを約束したところ、彼女は自分が尊重されたことに喜び、それ以降、職場で言い訳をしなくなったそうです。このように、部下を尊重しない職場では部下から反発されるということが起きてしまうので、会社は従業員を尊重するという姿勢が重要であり、それが組織の効率を高め、業績の向上につながります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんのご著書、「最高のリーダーほど教えない-部下が自ら成長する『気づき』のマネジメント」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、鮎川さんによれば、部下が気づきを得て成長してもらうためには、例えば、プロジェクトが失敗した際、「何が間違っていたのか?」と「何を学んだのか?」といった質問をすると、部下はそれに回答するために、「間違い」と「学び」について考えることになるので、このような効果的な質問をすることが大切ということについて説明しました。

これに続いて、鮎川さんは、あるリーダーの経験談として、職場で問題視されていた部下の話をきいた結果、その部下の態度が変わったということについて例示しておられます。「以前、言い訳ばかりして、いつもイライラしている女性スタッフがいました。そのスタッフに対して上司や同僚は、『何を言っても聞いてくれない』と諦め、そのうち腫れ物に触るように接するようになりました。ある時、私は、直接、彼女と仕事をすることになりました。その仕事はなかなかうまく進みませんでした。私は彼女に仕事のやり方に関する提案をしましたが、『だって○○だから』と言ってまったく受け入れてくれませんでした。

私は、彼女の不遜な態度と、何でも責任を他人に押しつける姿勢に、怒りを覚えました。以前の私でしたら、彼女にそのまま怒りをぶつけていたかもしれません。しかし、私は、『私が彼女に対して何ができるのか、または変われるのか』という点に的を絞りました。私は彼女に尋ねました。『仕事がうまくいかない理由をすべて教えて欲しい、私が何とかするから』と。すると、彼女は理由を話してくれました。私はその理由に対して一つひとつ『わかりました、私が対応しましょう、それで問題ないですね』という具合に対応しました。

正直、ほとんどの理由は非常識で理不尽なものばかりでしたが、私も本気で腹を据えていましたので、一貫してそのように対応しました。すると彼女は突然泣き出しました。どうしたのか尋ねると、『嬉しくて……私のことをこんなに考えてくださって嬉しくて……私、頑張ってみます』と泣きじゃくりながら言いました。それを契機に、彼女は言い訳をしなくなりました。彼女は上司や同僚と良い関係を築いています。そして、感謝の言葉を発するようになりました」(156ページ)

この事例の部下が改心したのは、自分を尊重してくれた相手には自分も尊重しようとするという、いわゆる「鏡の法則」によるものだと思います。恐らく、彼女は職場の中で自分は尊重されていないと感じてきたことから、リーダーが腹を据えて彼女の話をきいてくれたことに応じて、自分もリーダーを尊重しようとしたのでしょう。

私が述べるまでもないのですが、人は感情で動く有機的な存在ですので、会社の仕事を尊重して欲しい場合は、従業員に対しても会社は尊重して接することが欠かせません。しかし、このような理屈は容易に理解されるものの、部下を尊重する会社はそれほど多くないようです。それは、経営者や幹部社員が日常の事業活動に追われて、従業員への対応が後回しになってしまうからでしょう。

その結果、ブラック企業という会社が現れたり、離職率が高くて事業を継続できなくなる会社も現れたりするのでしょう。そのような反省も踏まえ、現在は、米国のサウスウェスト航空のように、「従業員第一、顧客第二主義」を打ち出す会社も登場するようになりました。同社では、チームとしての成果を高めるために、従業員同士を家族的な関係にするよにしていたり、会社主催のパーティに従業員の家族を招待していたりしているそうです。

これは、従業員満足度(ES)を高めることで、顧客萬独古(CS)を高めるという手法です。ただ、このESによってCSを高めるという手法は、直ちに効果が得られないという短所があります。とはいえ、経済社会が習熟した現在は、事業の競争力を高めるためには、ESを高める方法以外はあまり残されていないようです。したがって、時間や労力を要するように感じられたとしても、リーダーは、鮎川さんが例示したような部下への接し方をすることがますます重要になっていると、私は考えています。

2024/11/9 No.2887