[要旨]
エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんによれば、部下が気づきを得て成長してもらうためには、リーダーはそれを促すために効果的な質問をすることが大切ということです。例えば、あるプロジェクトが失敗した際、「何が間違っていたのか?」と「何を学んだのか?」と2つの質問をすると、部下はそれに回答するために、「間違い」と「学び」について考えるということです。
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今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんのご著書、「最高のリーダーほど教えない-部下が自ら成長する『気づき』のマネジメント」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、鮎川さんによれば、リーダーの指示を部下に理解して行動してもらうには、頭だけで理解してもらうのではなく、リーダーの話をどのように受け止めたかを部下自身に話してもらうなど、自分なりに理解できていることを確認する工夫が欠かせないということについて説明しました。
これに続いて、鮎川さんは、リーダーが部下に対して行う質問は、リーダーが部下のことを知るために行うのではなく、部下自身に自分の思考のクセを気づかせるために行うようにすることが大切ということについて述べておられます。「質問というと、『質問者が知りたいことを聞くため』に使うものだと思っているかもしれませんが、『気づき』のマネジメントでは別の意味を持ちます。部下が自分で大切なことに気づくためには、その質問が、回答者である部下にとって役に立つかどうかがポイントになります。
その質問が部下の考えを掘り下げたり、『自分がなぜそう思うのか』などといった自分の思考のクセに気づかせたりすることになり、それが部下の成長につながるからです。私たちがどのような質問をするかで、相手の脳が何を探しにいくのかが変わっていきます。例えば、あるプロジェクトが失敗した際、『何が間違っていたのか?』と『何を学んだのか?』と2種類の質問をした場合、相手は回答するために、それぞれ『間違い』と『学び』にアクセスしにいくのです。
そして、質問には必ず『何のために質問するのか』という目的が欠かせません。『部下にどう考えてほしいからこの質問をするのか』を意識しながら質問を行っていきましょう。質問は、相手の反応を見て工夫すればするほど、上手になっていきます。相手の答えによって、自分が投げかけた質問が正しかったのかどうかを知ることができます。あなたが想定していた回答があれば、その質問は合っていたといえます」(137ページ)
これまで、鮎川さんは、部下が気づきを得るようにすることで成長し、能動的に活動するようになると述べてきました。そして、リーダーから部下に質問をすることが、その気づきを得るための働きかけになるということです。特に、ビジネスの経験の浅い部下は、どうしても受動的に仕事をすることが多いと思います。それは、仕事のことがあまり分からない中で、周りの人から指示を受けることが多くなることから、ある面で仕方がないと言えるでしょう。
ところが、受動的に仕事をしてばかりいると、指示待ち的になってしまったり、その人の個性的を活かすことができなくなったりします。そこで、リーダーが質問をすることで、部下自身に考えるようになり、それが気づきにつながっていきます。鮎川さんの例では、「プロジェクトが失敗した際『何が間違っていたのか?』、『何を学んだのか?』という質問」をするとよいと述べておられます。
この例の他にも、有名なドラッカーの「3人の石工」の寓話のような質問をするとよいと思います。念のために、3人の石工の寓話について改めて説明すると、これはドラッカーの著書「エッセンシャル版マネジメント」の137ページに書かれているもので、3人の石工が、「何をしているかを聞かれて、それぞれが、『暮らしを立てている』、『最高の石切りの仕事をしている』、『教会を建てている』と答えた、第三の男こそマネジャーである」とドラッカーは述べています。
ビジネスの経験の浅い人は、生活のために仕事をしていると考えているでしょう。少し腕をあげてくると、自分はよい仕事をするために働いていると考えているでしょう。さらに、自分の仕事が意義あるものとするにはどうすればよいかと気づいた人は、目標を達成するために働いていると考えているでしょう。これは単純な例ですが、常に、部下に気づきを得てもらうために、効果的な質問をすることが、リーダーの重要な役割と言えるでしょう。
2024/11/8 No.2886