鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

伝えたことを部下自身にも話してもらう

[要旨]

エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんによれば、リーダーの指示を部下に理解して行動してもらうには、頭だけで理解してもらうのではなく、自らの体験と重ね合わせて『こういうことを言っているんだな』と自分なりに心で理解できるように工夫することが欠かせないとそうです。具体的には、リーダーの話をどのように受け止めたかを部下自身に話してもらうということをするとよいそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんのご著書、「最高のリーダーほど教えない-部下が自ら成長する『気づき』のマネジメント」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、鮎川さんは、かつて、ゆっくり仕事をしたり話をしたりする部下を持つリーダーが、その部下にイライラしていたので、相手に合わせて接してみることを薦めたそうですが、そのリーダーは、部下の動作に合わせて、話す速度と体の動き、呼吸の速度をいつもよりゆっくりにしてみた結果、これまでよりもずっと順調に打ち合わせができるようになったということについて説明しました。

これに続いて、鮎川さんは、上司の意図を部下に理解してもらおうとするときは、上司が部下に理解をしてもらおうとする姿勢を見せることが大切ということについて述べておられます。「部下に理解して行動してもらうには、部下が新たな情報を受け取る時、頭で理解するのではなく、自らの体験と重ね合わせて『こういうことを言っているんだな』と自分なりに心で理解できるように対話を工夫していくことが欠かせません。

このため、伝え方を配慮することと合わせて、どう伝わったのか、部下がどう捉えているのかを知るために、質問を効果的に活用していきます。気づいてほしいことを質問によって本人が気づくよう、さりげなくリードするのです。対話では、相手が『はい』、『いいえ』で答えられる質問をするだけよりも、相手の認識を確認する質問が大事になってきます。どう思っているかは本人に聞いてみなければわかりません。

リーダーにとっても部下にとっても、『わかったつもり』が一番怖いのです。同じ場面でも、このようになります。『今の話を聞いて、どんなふうに理解しましたか?○○さんの言葉で話してみてもらえますか?』『何が大事だと思いましたか?』『○○さんならどんな順番で何から始めますか?』このように、どのようにリーダーの話を受け止めたかを部下自身に話してもらうことによって、どのように捉えているのかを知ると同時に、部下自身も自らの理解度を認識します。

このプロセスを加えることで、お互いの認識を合わせていきます。質問のしかたを知ることによって、会話の深まり方がまるで違ってきます。適切な質問によって本当に聞きたいことにアクセスしていくことができるのです。大事なのは、リーダーが相手の本当の認識を理解しようとしながら話すことです。(中略)お互い認識合わせをしていくのには、『部下は、リーダーが伝えていることをどのように認識しているのか』を理解しようとしながら話さなければ、わかり合えるはずがないのです」(100ページ)

鮎川さんの、「リーダーが相手の本当の認識を理解しようとしながら話すこと」が大切ということは、ほとんどの方が理解されると思います。しかし、これも、事業の現場では、あまり実践されることが少ないように、私は感じています。その理由の1つ目は、経営者や幹部従業員は、今後、どのように事業活動をしていくべきかに大きな関心があり、自分の考えていることが部下たちに伝わっているかどうかまで気がまわらない場合もあるということです。

むしろ、そういう経営者や幹部は、自分が頭で考えていることは、部下たちは理解していると考えてしまい、両者の認識のズレはますます広がります。でも、それは、言うまでもなく、効率的な事業活動の妨げとなり、かえって、経営者をさらに悩ます結果になります。理由の2つ目は、これは何度もお伝えしていますが、経営者や幹部が、部下に対して認識を深めてもらうための働きかけの労力を惜しむことです。直接的な事業活動は、最前線の部下たちが中心に行うもので、管理職や経営者は、その部下たちの効率的な活動を促す働きかけを行うことが主たる役割です。

しかし、経営者や幹部がマネジメント活動への関心が少なかったり、マネジメントスキルが低かったりすると、鮎川さんのお薦めしておられるような働きかけは後回しにされてしまいがちなのだと思います。したがって、経営者や幹部の方たちは、会社内のコミュニケーションを充実させることが、業績を高めるための重要な要素であると認識し、部下に経営者や幹部の方針を深く理解してもらうことに注力しなければなりません。

2024/11/7 No.2885