鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

リーダーのアドバイスは『指示』になる

[要旨]

エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子さんによれば、部下に成長してもらうためには、部下に自分で考える機会を与えなければならないものの、部下に対しての上司のアドバイスが実質的な指示になってしまい、考える機会を奪ってしまっていることがあるので、注意が必要ということです。


[本文]

エグゼクティブコーチの鮎川詢裕子(あゆかわじゅんこ)さんのご著書、「最高のリーダーほど教えない-部下が自ら成長する『気づき』のマネジメント」を拝読しました。鮎川さんは、上司が部下に成長してもらおうとして助言をしても、その助言の仕方を間違えると、成長を妨げてしまうということについて述べておられます。

「アドバイスというと、一見、助言のようですが、実際は『このやり方をしなさい』という部下への指示に近いものになる傾向にあります。実際、『上司がアドバイスしたことは、やらないわけにはいかない』と感じる部下も多いでしょう。つまり、部下が自分で考える前にアドバイスをすると、それは『指示』になり、部下は考えなくなったり、自分の考えを持っていても従ってしまったりするのです。

では、どうすればいいのでしょうか?リーダーがアドバイスを行う場合、基本的な原則があります。それは、『部下が十分に考え終わったあとにアドバイスを行う』というものです。こうすることで、部下が『自分で考える』というプロセスを必ず通ることになります。『成長がない部下』というのは、結局、自分で考える機会を与えられなかったケースがとても多いのです。

アドバイスをする側は、実行するかどうかを期待しない覚悟が持てる時だけアドバイスするようにしましょう。『アイデアのひとつとして言っておくね』と一言添えることが大事になります。リーダーのアドバイスは、参考意見のひとつにすぎないことを言葉で伝えると、部下は『アイデアのひとつ』として受け止めるようになり、自分で考えて選択し、行動する機会が生まれるのです」(29ページ)

鮎川さんの、「自分で考える機会を与えられないと、部下は成長しない」というご指摘は、ほとんどの方がご理解されると思います。ところが、部下が考える前に上司がアドバイスをすると、それは、表面的にはアドバイスであっても、実質的には指示になってしまうというところに気づいていない経営者や管理者の方は意外と多いと思います。

したがって、「私はこんなに部下に助言をしているのに、部下がなかなか成長しない」と感じている経営者の方は、前述のように、部下に行っているアドバイスが実質的な指示になっていないか注意する必要があります。そして、アドバイスに関して注意しなければならないと私が感じていることは、部下に考える機会を与えるということは、それには時間がかかるということと、部下が考えた結果を否定してはならないということだと思います。

一般的に、経営者や管理職の人は、部下よりもビジネスパーソンとしての経験が長いので、課題にどう対処すればよいかという考えをまとめるまでの時間は比較的短くてすみます。しかし、部下は考えをまとめるのに上司よりもそれに時間を要します。ところが、上司が自分と同じ基準で部下も考えをまとめられると考え、部下を急かしてしまうと、考える機会を奪うことになります。これについては、上司は「急がば回れ」という気持ちを持つことが必要でしょう。

また、部下の考えを否定しないということについてですが、部下に考えさせるというプロセスを踏ませた以上、考えた結果を否定することは非論理的です。ある意味、考える人が違うのですから、上司と部下で考えた結果が異なるのは当然です。もし、部下に考えさせた結果が上司と一致しなければならなのだいとすれば、それは考えさせるのではなく、部下に上司がどう考えているのかを予想させるということになります。

もちろん、上司と比較して経験の浅い部下の考えた結論は、上司から見ると稚拙なものとなることもあるかもしれません。しかし、余程、見当違いでない限り、部下の考え方を尊重し、実践させてみることが、部下に経験を積んでもらうということになると言えるでしょう。また、部下の考えが上司にとってはやりにくいものであったとしても、部下にとってはやり易いものであり、その方が実践した成果が高いものになるかもしれません。

さらに、上司の経験からはうまく行かないと感じたとしても、経営環境が変わっているために、その時点では、部下の考えが正解になっているかもしれません。まとめると、上司はアドバイスしたつもりになって実質的な指示をしないようにすること、部下の考えを否定しないことによって、部下を成長させることが、会社の競争力を高める基本的な活動のひとつだと、私は考えています。

2024/11/5 No.2883