鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『膨張』ではなく『成長』を目指す

[要旨]

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、会社の売上を拡大する前に、会社組織の習熟度を高めなければならず、そうでなければ、仮に売上が拡大に成功しても、それは単なる膨張であり、正しい成長ではないということです。なぜなら、事業が膨張した状態では、針で突かれるように、何かのきっかけで事業がたちまち崩れてしまうリスクが高くなるからだそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、「会社と屏風は広げ過ぎると倒れる」と例えられるように、やりたいことがたくさんあると、結局、何もできないまま終わってしまうので、よい結果を得るには、目標の数は3つか最大4つに絞り込むことが原則ということについて説明しました。

これに続いて、新さんは、会社の事業規模を大きくしようとするときは、その前に、会社の質を高めなければならないということについて述べておられます。「会社も大きくなればなるほど、経営は難しくなる。会社はビッグになる前にグッドでなければならない。量を拡大する前には質を高めなければいけない。そうでなければ、仮に拡大に成功しても、それは単なる膨張(Expansion)であり、正しい成長(Growth)ではない。

膨張は針で突くと、バブルのほうにポンと破れてしまう。(中略)多くの人、特に若い経営者やリーダーは、規模の拡大ばかりに目を奪われがちだが、大きくても短命で終わっては、成功とはいえない。あえていえば、規模は小ぶりの目立たない会社であっても、永きにわたって成長を続けている『永続企業』の方が優秀といえる。

戦国時代が終わり、豊臣秀吉の治政になりかけたころのこと、秀吉が九州征伐にやって来た折、佐賀鍋島藩の当主、鍋島直茂に秀吉を討つように進言した者がいた。そのとき直茂は、『討つことは安きことなり。然れども末がつづかぬなり。また、三国領するも安きことなれども、十代と治むることとてもなるまじ。一国ばかりは長久すべし』と言って、その言葉には乗らなかったとされる。

一時の成功は可能だ。領土を拡大することも難しいことではない。しかし、それを維持し続けていくのは、佐賀鍋島藩を取り巻く地政学的な面からも、現有の家臣のかずからも困難である。十代にわたって治めることができないようなことなら、手を出すべきではない。いまの鍋島藩一国であれば、100年でも200年でも安定して治め続けられる。直茂がそう言った佐賀鍋島藩は、事実、徳川時代の最後まで続いた。

しかも、明治維新では、薩長土肥肥前とは、佐賀藩とその支藩)と称され、重要な役割を担い、その後の維新政府でも重職を排出した。会社を大きくすることは基本的に望ましいことだが、大きく(Big)する前には、よい(Good)会社にしなければならない。よい(Good)会社とは何か。第一に顧客満足、次に社員満足、取引先満足、社会満足、株主満足をきちんと果たし、結果として持続性のある成長(サスティナビリティ)を果たしている会社である」(163ページ)

新さんがご指摘するように、「規模は小ぶりの目立たない会社であっても、永きにわたって成長を続けている『永続企業』の方が優秀である」という考え方は、多くの方がご理解されると思います。これについては、アメリカン・エキスプレスのCEO、RJRナビスコのCEOを経て、1993年にIBMのCEOに就任し、当時、巨額の赤字を抱えていた同社を黒字に再生させた、ルイス・ガースナーも、同様のことを述べています。

すなわち、「高原のようななだらかな曲線を描く成長である『プラトー型モデル』こそが理想であり、槍のごとく尖ったマッターホルンのように、売上が急伸する『マッターホルン型モデル』は、売上を成長させる要因が失われたときに売上も急降下し、株主やユーザーから歓迎されない」ということです。では、なぜ、プラトー型モデルが望ましいのかというと、鍋島直茂が述べているように、「三国領するも安きことなれども、十代と治むることとてもなるまじ、一国ばかりは長久すべし」という面もありますが、私は、令和時代は、組織開発の重要性が高まっているからだと考えています。

すなわち、現在は、事業活動は、製造する製品や、販売する商品で勝負できる要素はの比重は下がってきており、組織の能力で勝負する時代になりつつあります。しかし、組織の能力を高めるには時間を要するので、売上が急速に伸びたとき、それに合わせて増員した従業員の育成が間に合わず、競争力を維持できなくなります。

もちろん、一般的には事業規模の拡大は望ましいことと言えます。そうであれば、売上の増加に合わせて、人材育成もしなければなりません。でも、売上だけを伸ばせば、GrothではなくExpansionになってしまいます。したがって、事業規模を拡大したいと考えている経営者の方は、売上の拡大と合わせて、組織の育成を速めることに注力しなければならないと言えます。

2024/10/31 No.2878