[要旨]
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、事業活動は組織的活動であり、うまく行くときは大きなリターンがあるものの、失敗したときは損失も大きくなるので、会社経営において舵取りは重要となります。ただ、経営にはこうすれば会社は絶対によくなるという「絶対」はないものの、こうすれば会社がよくなり成功する確率が高まるという規範はあるので、迷ったときには原理原則に還り、それに従うことが失敗を避けることになるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、人事評価システムで肝要なことは、評価基準が公正であること、その基準が全社に公開され、透明性が高く、上司と部下で共有されていることということについて説明しました。
これに続いて、新さんは、会社経営で迷ったときは、原理原則に還ることが大切だということについて述べておられます。「大八車とは、江戸期から昭和の時代、戦後10年くらいまでは頻繁に使われていた荷車のことである。(中略)大八車の語源は、大きさが八尺だからとか、滋賀県大津市の八町に由来するとか諸説あるが、諸説の1つでもある、『大人が八人分で運ぶ荷物を載せられる車』というだけあって、相当な重量物も運んでいたようだ。大量の荷物を運ぶときは、うまくいけば効率がよいものの、失敗したときにはそのダメージも大きい。
大八車の舵取りは慎重であったことだろう。企業経営も、うまくいったときは大きなリターンがある一方、失敗したときは大変な損害を被ることになる。失敗を避けるにはどうしたらよいか。現パナソニックの創業者で、経営の神様と言われた松下幸之助はこう言っている。『成功する企業はなぜ成功したか。成功するようにやっているからだ。失敗する企業はなぜ成功したか。失敗するようにやっているからだ』経営には、こうすれば会社は絶対によくなるという『絶対』はない。だが、こうすれば会社がよくなり成功する確率が高まるという規範(Norm=ノーム)はある。
成功するやり方、失敗するやり方の規範、それが原理原則である。原理原則にかなったやり方が企業の成功確率を高めるためのノームで、原理原則にかなわないやり方が失敗するノームということになる。迷ったときには原理原則に還る。これこそが失敗を避けるための『原理原則』である。この原理原則は企業経営のみならず、個人の場合でも当てはまる。成功する人は成功するようにやっているから成功し、失敗する人は原理原則を学ぶことなしにやっているから、何をやっても埒が明かないのである」(100ページ)
新さんは、大八車について、「大量の荷物を運ぶときは、うまくいけば効率がよいものの、失敗したときにはそのダメージも大きい」ため、「大八車の舵取りは慎重であったことだろう」と述べておられます。これは、会社経営の例えとして述べておられるわけですが、会社という組織的な活動は、1人だけの活動より効率的な活動ができるため、その運営にはそれに応じた注意深さが必要になるということです。
このことは当たり前のことなのですが、一方で、会社経営において、計画に基づいて事業を行ったり、実践した結果を検証したりするという、事業の精度を高めるため活動を行っている中小企業は少ないと、私は感じています。これに対して、新さんも、「経営には、こうすれば会社は絶対によくなるという『絶対』はない」と述べておられるように、事前に絶対に正しい方法は分からないのだから、計画的な事業活動に意味を感じないと考えている経営者の方も多いようです。
しかし、これも新さんが述べておられるように、「こうすれば会社がよくなり成功する確率が高まるという規範はある」わけですから、その規範を行うことが、少しでもライバルより優位に事業を進めることができるようになる鍵になると、私は考えています。しかも、最近は、VUCAの時代であり、これが決め手になるというような明快で効果を期待できる手法は、ますます見つけ難くなっています。そうであれば、1日でも早く、成功するための規範に着手することが大切です。
新さんは、松下幸之助の、「成功する企業は成功するようにやっている」という、禅問答のような言葉を引用していますが、私は、これは、「成功する会社は、基本に忠実な活動をしている」と言い換えることができると考えています。繰り返しになりますが、大八車は大量の荷物を運ぶことが出来るわけですから、舵取りが大切なように、組織的活動で行う事業も「経営(マネジメント)」という舵取りが重要であることは明白です。でも、どういうわけか、会社の事業活動にマネジメントの重要性を認識して、それに積極的になっている経営者が、中小企業ではあまり多くないと、私は感じています。
2024/10/22 No.2869