[要旨]
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、人事評価システムで肝要なことは、評価基準が公正であること、その基準が全社に公開され、透明性が高く、上司と部下で共有されていることだそうです。また、新さん自身も、かつて、上司から、半年前と比べてどれくらい伸びたか、1年前と比べてどうなったかと、自分の評価を聞いたとき、上司が丁寧に自分を見てくれていたことに感動したことから、新さんが上司になってからは、定量面だけでなく、部下を定性面でも評価することに努めてきたそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、経営者の考えと現場の思いとはすれ違うものですが、これは議論を経ることで埋めることができるため、ミドルマネジメント層が、部下と同じ目線で困難な目標に共感し、上位者の視点でその困難にチャレンジする意義を伝えて上下の意思疎通を図る役割を果たすことが重要だということについて説明しました。
これに続いて、新さんは、部下の評価を丁寧に行うことが大切ということについて述べておられます。「正しい評価とは定量と定性のバランスである。仕事の結果や実績は重要な評価対象であるものの、数字(定量的評価)のみでは底が浅い。過去の実績の評価に過ぎない。定性的な評価で部下の成長を促すことを忘れてはならない。まだ結果につながっていなくても、伸びしろがどの程度拡大したかは部下を育成するうえでは重要な視点である。
チームワークの理解、他部門との連携、部下・後輩の育成、毎年新しいことにチャレンジしているかなど、定量的に測れないことでも、会社や部門、さらには人の成長には大きな要素となることが多い。これらは長期的な成長のタネとして、評価の対象とすべきだ。ザックリ言うと定量60%、定性40%くらいのウェイト付けが適切だと思う。私は、かつて、上司から、半年前と比べてどれくらい伸びたか、1年前と比べてどうなったかと、自分の評価を聞いたとき、上司がそこまで丁寧に自分を見てくれていたことに驚き、同時に感動もした。
このときの感動から、私は、自分が上司になってから、定量に加え、部下を定性的に見て評価することに努めた。意外に部下は、上司は自分に関心がないと思っていることが多く、私が1年前、半年前、3か月前と比較して、伸びた点を指摘すると、素直に喜んでくれた。評価システムで肝要なことは、繰り返しになるが、評価基準が公正であること、そしてその基準が全社に公開され、透明性が高く、上司と部下で共有されていることである。最悪な評価方法は、いわゆる上司の個人的な好み、好き嫌いで部下を評価することだ。この手の情実人事が、日本ではことのほか多いのが残念な現実でもある」(97ページ)
今回の引用部分の主旨は、望ましい評価方法はどういうものかということですが、私は、その前に、上司が部下にどれくらい関心をもっているのかが問われると思っています。新さんも、「かつて、上司から、半年前と比べてどれくらい伸びたか、1年前と比べてどうなったかと、自分の評価を聞いたとき、上司がそこまで丁寧に自分を見てくれていたことに驚き、同時に感動もした」と述べておられます。すなわち、どのような評価制度が望ましいかとか、自分がどう評価されたかの前に、自分がどれくらい上司に関心を持たれているかが、部下にとってモチベーションを高める要素になっていると思います。
もし、部下が、上司から関心を持たれていることが分かれば、上司からの評価が自己評価より低かったとしても、これから評価を高めようという気持ちになることができるのではないでしょうか?これに対して、「部下に関心がないことはないが、日頃からたくさんの仕事をこなさなければならない中で、部下の成長の様子を記録することは難しい」と考える経営者や管理者の方も多いと思います。私もそれについては理解できますが、事業現場の業務は社長でなくてもできますが、部下の評価は社長でなければできない業務です。
ですから、社長は社長でなければできない業務に軸足を置くことが、組織活動を望ましいものにしていくことになります。もちろん、中小企業では、社長が現場にいないとまわらないという会社も多いと思いますが、その状況をわずかずつでも改善していくことが肝要です。ちなみに、今回は詳細な説明は割愛しますが、私は、事業改善のお手伝いをしている中小企業に、ジョブディスクリプションやBSCの導入をお薦めしているのですが、その理由は、部下の評価を可視化しやすくなり、透明性を高めるツールとしても使えるからです。
もちろん、これらの仕組みの導入や運用には労力がかかりますが、その裏を返せば、仕組みのない人事評価は不透明であり、また、その結果も恣意的になってしまうということです。しかし、人事評価を透明性が高く、客観的なものとすれば、それに要した労力を超える効果が期待できます。したがって、人事評価について労力を惜しむことはあまり賢明と言えるでしょう。
2024/10/21 No.2868