[要旨]
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、同社の社長に就任するとき、当時のアメリカ総本社CEOジェームズ・バーク氏から、「君が社長職をまっとうしたとき、どんなに業績を伸ばしたとしても50点であり、在任中に後継者を育て上げなくては100点にならない」と言われたそうです。なぜなら、業績と人財育成の両面で評価するのは、アメリカのエクセレトカンパニーに共通する特徴であり、企業は“Going Concern”(継続的組織体)だからだということです。
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今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、紀元前3世紀の中国で、秦の滅亡後に、項羽と劉邦は派遣を争いましたが、このうち項羽は、武将として抜群の実力を持っていたものの、独断専行型で重臣の意見に耳を貸さなかった一方、劉邦は武将としての力量は項羽と比較して少ないながらも、臣下の優れた者を篤く任用し任せ切った結果、多くの臣下の力を存分に発揮させた劉邦が、最後に勝者となり漢帝国を打ち建てたそうですが、このように、権限委譲は人財を育成する上でも、企業を発展させる上でも、極めて重要な条件だということについて説明しました。
これに続いて、新さんは、後継者を育成することの大切さについて述べておられます。「後継者というのは、40代、50代の役職者だけではない。30代の若手ビジネスパーソンも後継者候補である。それぞれ、現在の立場に応じて、課長の後継者であり、部長の後継者であり、そしてやがて社長の後継者となるかもしれない。ただし、階層が上に行くほど人数は絞られるので、社長の後継者になる人は、課長候補者、部長候補者のうちの数人となるだろう。
私がジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人の社長に就任するとき、当時のアメリカ総本社CEOジェームズ・バーク氏からこう言われた。『君が社長職をまっとうしたとき、どんなに業績を伸ばしたとしても、それだけでは100点満点で50点である。50点では落第だ。在任中に後継者をしっかり育て上げなくてはいけない。きちんと後継者を育てることができてプラス50点、合わせて100点となる』仕事で結果を出すだけでは50点。その上に後継者をつくって100点という教えである。
この点数配分は、社長への評価に限った話ではない。課長も、課長時代に課の成績を上げるだけではなく、課長が務まる後継者を育てることができて100点、部長は成果を伸ばしただけでは50点、やはり後継者を課長の中から育てなければならない。『業績プラス人財育成』がミッションなのである。業績と人財育成の両面で評価するのは、業績がよく、社歴の古いアメリカのエクセレントカンパニーに共通する特徴である。企業は“Going Concern”(継続的組織体)だからだ。
人の寿命には限りがある。200年、300年と生きる人はいない。しかし、企業は適切な経営を続けていれば、寿命に制限はなく、200年でも300年でも、持続的に成長することが可能だ。持続的に成長を重ねるためには、事業のバトンを受け継ぐ次世代の人材が不可欠である。企業にとって、常に人材を人財に育て続けることが重要となるのは明白だろう。だから、課長は課長の、部長は部長の、社長は社長の後継者を育てることが、業績を上げることと並ぶ最重要の仕事となるのだ」(39ページ)
新さんは、「業績+人財育成が社長の使命」という言い回しをしていますが、私は、これは、「社長は社長がいなくても自ずと事業活動がまわる組織をつくることが役割」と同じ意味だと考えています。その理由は事業活動は組織活動だからです。中小企業の多くでは、社長が現場にいないとなかなか事業がまわらないということが多いと思いますし、特に、黎明期の会社ではそうなってしまうことは仕方がないと思います。
しかし、そのままでは、単なる、社長とその指示に従って作業をする従業員の集まりに過ぎず、組織的な活動をしている状態とは言えないでしょう。本当の意味での組織活動ができるようにならなければ、組織的活動ができる会社との競争にすぐに敗れることになるでしょう。そして、そのような状態になれば、自ずと従業員の中から社長候補は現れるでしょう。なぜなら、事業活動がまわるようになっているということは、組織の成熟度が高まっているということであり、そうであれば、次期社長は、管理業務に専念すればよいということになるからです。
すなわち、事業活動を飛行機に例えれば、滑走路に停止している飛行機を、多くのパワーを使って離陸させ、安定軌道にのせれば、後は、それほどの力も必要とせず、パイロットは計器を見ながら飛行機を操縦すればよいからであり、そうであれば、社長候補はよういに見つかるでしょう。そして、このような会社こそ、真の意味での“Going Concern”(継続的組織体)と言えるでしょう。とはいえ、現実には、誰でも社長が務められるような会社をつくることは難しいですが、逆に言えば、現在の社長がいなければ業績が下がってしまったり、事業が行き詰まってしまったりするような会社であれば、それは実態としては「個人商店」の状態であり、競争力は低いままとなってしまうでしょう。
また、新さんは、「業績を伸ばして50点、きちんと後継者を育てることがでス50点、合わせて100点」と述べておられますが、私は、「社長がいなくても自ずと事業活動がまわる組織」ができれば、自ずと業績は伸びると思っています。そのような観点からは、私は、「社長は社長がいなくても自ずと事業活動がまわる組織」をつくるだけで100点だと思っています。
2024/10/15 No.2862