[要旨]
コンサルタントの徳谷智史さんによれば、ベンチャーキャピタルから出資を受け、上場が近づいてきた会社の中には、創業初期から社長がトップ営業を担ってきたものの、株主から見たら、『トップが営業ばかりしているから、次の事業を考えられる人が誰もいないのではないか』、『社長が営業部長の域を脱していない』と言われ、交代を突き付けられることがあるそうです。したがって、社長や経営陣には、会社の成長とともに、自分をアップデートし続けることが求められるということです。
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今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、徳谷さんによれば、創業期から頑張ってくれた古参の役職員たちは、黎明期から会社を支えてくれた功労者ですが、中には、自分のやり方だけが正しいと考え、後から加わった従業員に自分の考え方を押し付ける「お山の大将」になり、社内に悪影響を広げ、業績を下げてしまうので、経営者は、お山の大将を排除し、属人的なスキルに頼らずに業績を高める仕組みを確立することに注力しなければならないということについて説明しました。
これに続いて、徳谷さんは、ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受け、株式上場を目指している会社は、VCから社長交代を要請されることがあるということについて述べておられます。「会社が大きく成長し、上場が見えてくるフェーズになって生じる『人の問題』についてお話ししましょう。それは、『経営陣のレベルが低い』、『この社長は代えるべきだ』と、株主やベンチャーキャピタルからはっきり言われるケースです。例えば、創業初期から管理会計を担ってくれたCFOがいたとします。上場前夜までは、彼の力でなんとかなっていても、上場するとCFOの役割が変わることがあるのです。
具体的に言えば、将来の成長の絵を描き、それを株式市場に説明することや、資金調達のスキームを考えること、事業を踏まえた財務戦略を考えること、といった役割です。そうなると、求められる水準がグンと高くなり、キャパシティを超えてくるのです。社長としては判断に悩まされます。創業初期から支えてくれた功労者だから、会社に残したいけれども、株主からすると『CFOというよりは管理部長の延長でしかないから代えるべきだ』といった話になるからです。
同様に社長自身も、株主やベンチャーキャピタルから『トップを代えるべきだ』と言われることもあります。創業初期から社長がトップ営業を担ってきたものの、株主から見たら、『トップが営業ばかりしているから、次の事業を考えられる人が誰もいないのではないか』、『社長が営業部長の域を脱していない』と言われ、交代を突き付けられるのです。立場上、つらい気持ちはわかります。しかし、会社の成長とともに、自分をアップデートし続けることが、社長や経営陣には求められるものなのです」(138ページ)
本旨から少し外れますが、現在でも、ときどき、「会社は誰のものか」という疑問が投げかけられるときがあります。ここで言う「誰のものか」とは、「誰に支配されるのか」という意味です。この問いに対する正解はないと思うのですが、現在の日本の会社法では、会社は株主のものということになっています。しかし、日本の上場会社の多くは、株主があまり「モノを言わない」ので、実態は、従業員が昇格した社長、すなわち、実質的には従業員代表の社長が経営方針の決定権や人事権を握っていて、モノを言わない株主は株主総会で社長の提案を追認するだけという状態が続いていました。
このような状態は、近年、徐々にくずれつつあり、日本の上場会社の株主にも、モノをいう株主が増えてきていますが、会社側も、モノを言う株主を排除しようとする場合もあり、現時点でも、日本の会社の多くは、法律上は株主のものであっても、実態は従業員のものという状態になっていると私は考えています。話を戻すと、上場を目指している会社が、VCから社長は営業部長のままだ、CFOは管理部長のままだという不満を持たれるというのは、ある面で、私は仕方がないことだと思っています。
なぜなら、上場前の会社では、株主数はVCや経営者など少数であり、社長やCFOは「株主」をあまり意識する必要はないということもあり、事業を計画通りに遂行するために、社長やCFOの意識は、顧客や従業員に向けるだけで手一杯になるからです。しかし、株式を上場すると、株主は不特定多数になることから、社長やCFOは、株主からの評価を強く意識しなければなりません。先ほど、日本の上場会社の株主の多くは、ものを言わない株主と述べましたが、ものは言わなくても、会社が株主から支持されなければ、株式を購入してもらえなかったり、手放されたりして、資金調達に支障が出ます。
そこで、上場を目指している会社の経営陣が、顧客や従業員ばかりに意識が向き、株主から評価される活動をしていないと、VCからは能力不足と感じられてしまうのだと思います。では、上場をまったく考えていない会社の経営者は、「自社は上場を目指していないから、株主を意識する必要はない」と考えてよいのかというと、私は、上場しないからといって、「社長は営業部長のまま、CFOは管理部長のまま」でよいとは考えていません。
中小企業では、社長が営業部長のような役割をすることは少なくないと思いますが、そうであっても、社長が営業部長として活動するだけで、会社の舵取りを担う役割が不在の会社は、日々、目の前のことだけに対処するだけで、経営環境の変化に適応できなくなる可能性が高くなります。したがって、上場は考えていない会社であっても、経営陣は、「会社の成長とともに、自分をアップデートし続けること」が必要であるということを、改めて感じました。
2024/9/24 No.2841