鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

社長は財務諸表を一気通貫で把握すべき

[要旨]

コンサルタントの徳谷智史さんによれば、経営者は、貸借対照表損益計算書キャッシュフロー計算書を一気通貫で管理しなければならないということです。営業パーソンは、売上を増やすことが役割なので、売上高だけを見ていますが、経営者は、事業の舵取りをすることが役割ですから、財務諸表を総合的に把握しなければ、その役割を担うことができないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、創業直後の会社では、たくさんの固定費が必要な一方で、売上によって得られる利益はなかなか実現せず、この両者のずれによる資金不足をどのように埋めるかが重要になるため、経営者がしっかりとした資金計画を立て、それを管理していくことで、事業を安定化させなくてはならにということです。

これに続いて、徳谷さんは、社長は財務諸表を部分的にではなく、総合的に把握しなければならないということについて述べておられます。「こうした資金繰りの手当てを先んじて実行するために欠かせないのが、『財務三表』です。自社の財務三表を見れば、現状を正確に把握することができます。少しだけ専門的な話に入りますが、財務三表とは、P/L(損益計算書)、B/S(貸借対照表、バランスシート)、C/F(キャッシュフロー計算書)のことです。

ビジネスパーソンは、簿記や会計を勉強している人が多いので、社長でなくても、自社の財務三表をチェックしたことのある方も多いでしょう。ただ、組織で働くいちビジネスパーソンと社長では、見ている部分が違います。最も違うのは、社長は『一気通貫で見ないといけない』ことです。日常的に財務三表を見ているビジネスパーソンも、ほとんどの人は、一部分しか見ていません。

いや、見ていないというよりは、見る必要がない。実際に仕事をするうえで必要になるのは、一部分だけだからです。例えば、営業パーソンは売上を見ますが、コストサイドまでは見ないケースが多い。せいぜい売上から原価を引いた『粗利』ぐらいまででしょう。受注と値引きも含めた粗利までが管理範囲であることが多く、コストの中でも自分たちが関与していない販管費、例えば本社の経費までは細かくチェックしません。

それに対し、社長は、B/S、P/L、C/Fをすべて見る必要があります。現状を把握し、未来を予測するときに、三表すべてを見ないと分からないことがあるからです。特に創業初期において悩みの種になりがちなのが、P/L上の利益とキャッシュフローが一致しないことです。『P/Lで見ると純利益が出ているのに、手元に資金が全然ない』ということが起こりがちなのです」(47ページ)

本旨から外れますが、キャッシュフロー計算書と資金繰票は、どちらも資金管理のためのツールであるという点では共通していますが、異なるものであるということにご注意ください。また、キャッシュフロー計算書は、上場会社では作成が義務付けられていますが、それ以外の中小企業では作成を義務付けられていないので、中小企業経営者の方の多くは、自社のキャッシュフロー計算書を見たことがないと思います。私は、キャッシュフロー計算書は専門性が高いため、中小企業では資金繰票(できれば、過去の資金繰の実績を示す資金繰実績表と、将来の資金繰の見込みを示す資金繰予定表の両方)を活用することが望ましいと考えています。

話を本題に戻すと、徳谷さんの、「社長は一気通貫で財務三表を見ないといけない」というご指摘は、まったくその通りです。これについては、多くの方がご理解されると思いますし、特に説明は必要がないと思います。ところが、これまで私が創業して間もない会社の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、経営者の多くは、営業パーソンと同じように、売上しか見ていない場合が多いということです。その理由については、上から目線で恐縮ですが、起業する社長の多くは、マネジメントよりも、営業活動に関心があり、営業パーソンと同じ視点でしか財務三表を見ないのではないかと思います。

もうひとつの理由は、これも起業する社長の多くは、自社の事業は成功するという前提で起業するため、資金管理の必要性を感じていないという面があると思います。しかし、年を追って経営環境は不透明になっているわけですから、自社の事業に自信があるとしても、経営者は資金管理やマネジメントに軸足を置き、きちんと、財務三表の一気通貫で見なければなりません。ただ、これも上から目線で恐縮ですが、経営者の方の中には、会計リテラシーがあまり高くない方も少なくありません。

私は、経営者の方が会計の専門的な知識を持つ必要はないと思いますが、貸借対照表損益計算書、資金繰表の活用法は理解し、また、資金繰表は経理データを基に自分で作成できることが望ましいと思っています。結論としては、経営者は、当然のことながら、経営の最終的な責任を負っているわけですから、売上だけにを見るのではなく、きちんと財務三表を読み取り、適切に資金管理をお行わなければなりません。

2024/9/16 No.2833