[要旨]
コピーライターの川上徹也さんによれば、カリフォルニア工科大学の実験で、価格の高いワインほど、顧客は高く評価するということがわかったそうです。だからといって、価格を偽って販売することは、顧客からの信用を失うため、行ってはいけませんが、「ストーリー」によって価値を付加することで、顧客の満足を高めることは可能になるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、コピーライターの川上徹也さんのご著書、「価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川上さんによれば、自社の強みと外部環境を分析し、外部環境に合わせて自社の強みを発揮できる事業を行うことで、売れ続けることができるようになるということを説明しました。
これに続いて、川上さんは、商品価格の値下げは避けるべきということについて述べておられます。「値下げすることは、商品やサービスの価値自体も下げてしまいます。2008年、価格が安いほど満足度が低くなるという研究結果が、カリフォルニア工科大学とスタンフォード大学の研究者によって示されました。まず、ワインを時々飲む学生を被験者に集め、彼らに複数の赤ワインを飲んでもらい、その度に値段を告げて、脳の色々な場所の活性を測定しました。
実際には5ドルと35ドル、90ドルの3種類のワインしかないにもかかわらず、5種類の値段が違うワインがあるとみせかけて試飲させました。5ドルのワインと90ドルのワインと90ドルのワインは、それぞれ本当の値段と偽の値段を伝えて、それぞれ2回飲ませたのです。すると、被験者たちは、5種類とも味が違ったと答え、実際の中身に関係なく値段を高くつけたワインを飲んだときの方がおいしかったと答えたのです。
また、脳の測定でも、実際の中身とは関係なく値段が高いと伝えられたワインに強い喜びがでました。この調査でわかるのは、いくら90ドルの価値を持ったワインでも、10ドルで売ると10ドルの価値しか持たなくなり、5ドルのワインでも45ドルで売るとそれなりの価値を持つということです。もちろん、だから不当な値段をつけてぼったくれと言っているわけではありません。
そんなことをしてもいつかはバレて信用を落とすだけです。また、今まで価格が不透明だったり、不当に高かったりした業界に、まったく新しい料金で殴り込みをかけるような場合は別です。それ自体がストーリーになっていますし、あなたは生活者から拍手で迎えられる可能性はたかいです。しかし、一般的には『価格』で勝負しても、結局は体力のある大手企業に負けるのは目に見えています。
特に、小さな会社やお店が勝負すべきは、『価格』の土俵ではなく『価値』の土俵です。他でやっていないことをすることで『価値』を生み出すのです。お客さんが、あなたの会社、お店、商品に対して『価値』を発見できれば、お客さんはそれに見合った価格を払ってくれます。そのような『価値』を生み出すためには、それに見合った『ストーリー』が必要になってくるのです」(31ページ)
カリフォルニア工科大学の実験から分かることは、ワインのおいしさは、ワインそのものではなく、価格に占める部分が大きいということです。もちろん、川上さんもご指摘しておられますが、本当は安い商品の価格だけを高くするようなことは、顧客に見透かされてしまうので、そのようなことは行うべきではありません。そこで、どうすれば価格を高くすることが出来るのかと言えば、川上さんは「ストーリー」が必要と述べておられます。ただ、この「ストーリー」をつくることは簡単ではないということも事実です。そこで、多くの会社は価格競争を選ぶという結果になってしまうのでしょう。
ちなみに、皆さんは、スターバックスコーヒーとドトールコーヒーでは、どちらのコーヒーがおいしいとお考えでしょうか?好みもあるかもしれませんが、スターバックスの方がおいしいと感じる方が多いかもしれません。というのも、前述のワインと同じで、スターバックスの方が価格が高いという要因は否定することはできないでしょう。ちなみに、経営コンサルタントの小宮一慶さんによると、スターバックスの原価率は25.2%で、ドトールの原価率は40.22%だそうです。
もちろん、この原価率はコーヒーだけの原価率ではないので、単純に比較することはできませんが、両社は原価ではコーヒーの価格にそれほど差はないと考えることができます。それでも、スターバックスの方が価格が高く、それに見合った味がすると感じることができるのは、スターバックスは「ストーリー」に力を入れているからと考えることができます。今回は、「ストーリー」をご理解いただくために、スターバックスとドトールの例を示しましたが、現在は、商品そのものの品質に差はつきにくい時代なので、顧客はストーリーに価値を感じる時代になっているということをご理解いただきたいと思います。
2024/9/9 No.2826