鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

集団運の作用で『1+1』が『3』に

[要旨]

ドン・キホーテ創業者の安田隆夫さんによれば、夏の高校野球の地区大会で、月並みなチームなのに、あれよあれよという間に勝ち進んで地区大会を制し、番狂わせ的に甲子園への出場権を手にする例は、誰かしらの情熱溢れる一言が契機になるなど、何らかのきっかけでチームの全員が、「みなでやってやろうぜ」と盛り上がり、その熱量が最高潮に達して化学反応を起こし、「1+1」が「3」にも「4」にも「5」にもなり、本来の実力をはるかに上回るようなミラクルパワーが発揮されることがありますが、それは「集団運」が作用した例だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、安田隆夫さんのご著書、「運-ドン・キホーテ創業者『最強の遺言』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ドン・キホーテが好業績を続けてきた理由は、安田さんの「個運」を「集団運」、すなわち、安田さんの価値観や行動様式を、部下の人たちにも持ってもらうようにしたからだそうであり、そうすることで、「弾み車」のように、事業の発展の速度を加速させることができたということについて説明しました。

これに続いて、安田さんは、集団運について、高校野球のチームを例にして、さらに詳しく説明しています。「この『集団運』が作用しやすい典型例が、野球などチーム戦によるゲームに見られる。例えば、毎年、夏に開催される、地区勝ち上がりの高校野球(甲子園大会)では、必ずしも実力がトップクラスではない、どちらかというと月並みなチームなのに、あれよあれよという間に勝ち進んで地区大会を制し、番狂わせ的に甲子園への出場権を手にするなどのケースがよくある。

これは、『チーム全体がツキの流れに乗った』という曖昧な表現で済まされがちだが、私に言わせれば、一過性ではあるが、立派な『集団運』が発露された分かりやすい例である。具体的に言うと、ある時、誰かしらの情熱溢れる一言が契機になるなど、何らかのきっかけでチームの全員が、『みなでやってやろうぜ』、『こうして勝とうぜ』と盛り上がって、その熱量が最高潮に達して化学反応を起こし、『1+1』が『3』にも『4』にも『5』にもなり、本来の実力をはるかに上回るようなミラクルパワーが発揮される。これが『集団運』なるものの正体ではないだろうか。あるいは、2023年3月開催のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でも、同様の光景が見られた。

読者の皆さんもご存じの通り、日本代表の『侍ジャパン』が見事な戦いぶりを見せ、14年ぶりに世界一を奪還した。WBCの各試合では、あの大谷翔平選手やダルビッシュ有選手など、世界の球界を代表する超一流メジャーリーガーが、謙虚かつ情熱溢れるパフォーマンスを見せた。さらに、アメリカとの決勝戦の直前、大谷選手がチームメイトに語りかけた。「(彼らに)憧れるのはやめましょう』、『僕らは今日(彼らを)超えるために、トップになるために来た』という言葉は、チームの空気を一変させたと記憶している。侍ジャパンの一連の戦い方を見ると、大谷選手やダルビッシュ選手が持つ強力な『個運』が、チーム全体の『集団運』へと乗り移ったのだと言えよう。

前述した、『情熱の渦に巻き込む力』がトルネード効果をもたらし、日本をワールドチャンピオンへといざなったのだと私は理解している。もっともこれらの例は、短期的な試合でのみ発揮される瞬間的な『集団運』である。我々経営者とビジネスパーソンにとって必要なのは、中長期にわたって勝ち続ける『集団運』だ。仮に、短期的な局面で負けたとしても、その負けを次の勝ちにつなげるための材料として検証・分析し、バージョンアップして果敢に攻めて行く。そんな『集団運』を持った組織を目指さなくててはならない」(156ページ)

安田さんは、「ある時、誰かしらの情熱溢れる一言が契機になるなど、何らかのきっかけでチームの全員が盛り上がって、その熱量が最高潮に達して化学反応を起こし、『1+1』が『3』にも『4』にも『5』にもなり、本来の実力をはるかに上回るようなミラクルパワーが発揮される」とご指摘しておられます。これは、私が述べるまでもありませんが、組織的活動とは「1+1>2」となるところに意義があると思います。そして、このことも多くの方がそのように思っているのかもしれませんが、一方で、実際にそのことを意識してマネジメントしている経営者や管理職の方は少ないと、私は感じています。分かりやすい例をあげると、部下にノルマを与える会社はその典型だと思います。

そのような会社では、「部下の人数×ノルマの金額=会社の売上」であり、「1+1=2」でしかなく、組織的な活動があまり行われているとはいえません。さらに、もし、部下がノルマを達成できるのだとすれば、会社に所属して働く意味もあまり多くありません。わかりやすくするために、このような単純な例を示しましたが、このような会社に近い状態の会社は少なくないと、私は感じています。では、なぜ、こういう会社が多いのかというと、それは、「1+1>3」となる組織をつくるためのスキルは習得することが難しいからだと思います。

後の記事で述べる予定ですが、安田さん自身も、かつてはどのように行うべきかに苦しんだご経験があるようです。しかし、結果として、「1+1>2」となる方法を見出し、ドン・キホーテを発展させることができるようになったようです。では、それはどのような方法なのかということは後の記事で述べたいと思いますが、経営者の方は、「1+1>2」となる組織づくりが最も重要な役割だということを、今回は述べたいと思います。そうでなければ、組織的活動はできず、自社の組織力は弱いままなり、競争に勝つことが難しくなってしまいます。

2024/8/29 No.2815