鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

リスクをとらないのが一番のリスク

[要旨]

ドン・キホーテ創業者の安田隆夫さんによれば、不確実極まりない時代においては、リスクをとろうがとるまいが、思わぬ幸運や不運はそれなりにやってくる、すなわち、リスクをとらないのが一番のリスクとなる時代であるということです。すなわち、自ら選んだ道でリスクを受け止めながら、切磋琢磨し続ける人にこそ、幸運の女神は微笑むということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、安田隆夫さんのご著書、「運-ドン・キホーテ創業者『最強の遺言』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安田さんによれば、早く成功にたどり着くためには、挑戦する回数を増やすことが基本ですが、その回数を増やすためには、迅速に撤退の決断をする必要があることから、あらかじめ「失敗の定義」を決めておくと、失敗を恐れずに次の挑戦に向かっていくことができるようになるということを説明しました。

これに続いて、安田さんは、リスクをとらないことが最大のリスクであるということについて述べておられます。「いつの世も、リスクをとらなければ、大きなリターンはあり得ない。これは誰もが認めるところだろう。安全圏内にいながら、成功の果実をもぎ取ることは難しい。では、リターンを期待しない代わりに、リスクをとらなければ、継続的な安定や安寧が得られるのか。昔は上手くいったかもしれないが、今は、決してそうはいかない。不確実極まりない時代においては、リスクをとろうがとるまいが、思わぬ幸運や不運はそれなりにやってくる。

例えば、昔は手堅い就職先として銀行が人気を集めていたが、バブル崩壊後は大手銀行でも経営破綻が相次ぎ、業界に大きな再編の波が押し寄せている。もちろん、銀行に留まらず、わが国を代表するような他の大手企業においても、そうした例は枚挙に暇がない。ここで何が言いたいかというと、お堅くて保守的な大手企業等に就職して小市民的な生活をひたすら大事に守り続けても、この不確実な世の中では思わぬことが次々と起こり得る。

望まない就職先や生き方を選んで苦労するくらいなら、最初から素直に自分のやりたいことができる世界に飛び込んだ方が、人生ははるかに充実して楽しくなるのではないかということである。自由闊達な社風で実力主義の企業に就職するとか、あるいは、準備期間をおいて思い切って起業してみてもいい。自ら選んだ道でリスクを受け止めながら、その過程で切磋琢磨し続ける。そんな人間にこそ、運の女神は最大の微笑みを返してくれるのではないだろうか。いずれにせよ、リスクを恐れて守りに入る人に、運がつかないのは自明の理だ。

とりわけ、今のような時代は、『リスクをとらないのが一番のリスク』である。少なくとも、私は、この言葉を座右の銘にして、若い頃から疾走するようにして生きてきた。何か重要な決断をする際は、ともすればリスクを避け、安易でもっともらしいところに落ち着こうとする自分の気持ちを、意識的に排除するよう努めてきたつもりだ。そうして、常に最大の果実を収穫する方法を選択してきたのである」(75ページ)

安田さんのご指摘しておられる、リスクをとることが大切ということも、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、このリスクをとることを躊躇する経営者の方は、決して少なくないと感じています。例えば、私は、しばしば、あまり業績がよくない中小企業経営者の方から、なかなか融資を受けることができないというご相談を受け、融資申請のお手伝いをすることがあります。そして、そのような会社が、無事、融資を受けることができた後は、そのような会社に対し、どのような助言をするかというと、事業を改善するための活動をご提案します。

その理由は、言うまでもありませんが、次回、運転資金が不足しそうになったときに、銀行から円滑に融資を受けることができるようにするためには、その時点で業績が改善していることが望ましいからです。もちろん、提案を受けた経営者の方も、その提案に口頭では賛同します。しかし、ほとんどの経営者の方は、実際には事業の改善に着手しないまま、そして、業関も改善しないまま、再び、運転資金が不足しそうになり、銀行に融資を申し込む結果になります。とはいえ、そのような経営者の方に問題があるのかというと、直ちにそのように指摘することは適切ではないと、私は考えています。

やはり、経営環境の不透明さが増しつつある中で、事業の改善に踏み出すには、部外者が考えているよりも、相当の決断力が必要になると、私は考えています。ですから、中小企業であっても、経営者を務めること自体がとても大変なことであり、さらに現状を変えることは、さらに難しいことと思います。しかし、安田さんがご指摘しておられるように、「不確実極まりない時代においては、リスクをとろうがとるまいが、思わぬ幸運や不運はそれなりにやってくる」と考えれば、改善活動の決断がしやすくなるのではないかと思います。

すなわち、かつては、新たな活動を始めて失敗したときは、その決定をしたことが批判されがちでしたが、現在は、新たな活動を始める決断をしないことの方が批判される時代になってきたと言えます。そして、不透明な経営環境は、自社だけがおかれているわけではありません。ライバルがおかれている経営環境も同様に不透明です。すなわち、自社とライバルの土俵は同じであるわけですから、何らかの活動をすることの方が成功する確率は相対的に高くなります。このように考えることで、事業の改善活動に、より前向きに臨むことができると、私は考えています。

2024/8/23 No.2809