鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『社長を育てる社員』を持っている社長

[要旨]

ビジネスコーチの秋山ジョー賢司さんによると、これまで秋山さんがご支援をしてきた会社の中には、部下が社長を育てる会社があったということです。その場合、社長と部下の関係は上下関係ではなく、パートナー的な関係にあるそうです。そして、そのような会社は、社長の能力が高まることから、強い組織になっていくということです。


[本文]

ビジネスコーチの、秋山ジョー賢司さんのポッドキャスト番組を聴きました。秋山さんによると、これまで秋山さんがご支援をしてきた会社の中には、部下が社長を育てる会社があったということです。その場合、社長と部下の関係は上下関係ではなく、パートナー的な関係にあるそうです。そして、秋山さんは、社長と部下の関係がそのようになるためには、部下が社長にフィードバックをしてくれる、すなわち、駄目出しをしてくれること、そして、社長自身が、部下に対してそれを望んでいることを希望することが要件になるとお話ししておられます。

この秋山さんのご指摘をきいて、私は、秋山さんがご指摘しておられる組織はティール組織、すなわち、個々の従業員に意思決定権があり、従業員の意思によって目的の実現を図ることができる、フラットな自走式組織に近いのではないかと感じました。もちろん、ティール組織は、部下が社長にフィードバックをする組織ではありませんが、ティール組織のような状態にならなければ、部下が社長にフィードバックをすることもないでしょう。そして、部下が社長にフィードバックする組織は強い組織であるということは、理論的に説明しなくても、感覚的にご理解できると思います。

その理由の1つ目は、部下たちが社長に近い視点で活動をするからです。このような組織は、トップダウン方式で、社長の指示がなければ部下が動かない組織と比較して、迅速、かつ、能動的に活動するからです。理由の2つ目は、社長の能力が高まるからです。一般的に、社長の立場にいる人(上場会社の子会社の社長など、いわゆるサラリーマン社長などは除きます)は、誰からもフィードバックを受ける機会はほとんどないと思いますが、そのような社長と比較して、部下からフィードバックを受ける社長は成長する機会は多くなります。

しかし、このような会社を実現することは難しいということも現実だと思います。その理由の1つ目は、部下たちがティール組織のように、自主的に活動できるようにすることは、一朝一夕にはできないからです。部下たちに権限を与えることはすぐにできるものの、その権限を活用して、自分の判断で行動できるようになるには、ある程度の時間をかけて訓練することが必要です。理由の2つ目は、これは秋山さんがご指摘しておられましたが、社長が部下からフィードバックを受けることは、精神的に受け入れることが難しいという面があります。私も、社長がそう感じてしまうことは理解できます。

というのも、これまで、長い間、日本においては、社長と部下の関係は上下関係にあると考えられてきたわけですから、「部下が上司に意見する」ということは考えにくいことです。しかし、前述したように、「部下が社長を育てる会社」は強い会社になることは間違いありません。そこで、これからの社長と部下の関係を、私は次のように考えていくべきだと思っています。1つ目は、社長はポジション(地位)ではなくファンクション(役割)と考えることです。社長はマネジメントの役割を担いますが、それは、ポジションが高いからではなく、マネジメントという機能をになっていると考えるということです。

2つ目は、リーダーシップは社長だけが発揮するものではなく、従業員全員が発揮するものであると考えることです。社長だけがリーダーシップを発揮している会社より、社長と従業員の全員がリーダーシップを発揮している会社の方が、大きな成果を得られることは確実です。3つ目は、事業活動は社長1人の意見が反映されるものではなく、部下たちの意見も反映される方が、組織活動の成果は大きくなると考えるということです。社長が部下からフィードバックを受けるということは、部下の意見の反映のひとつと言えるでしょう。

ここで、会社で多数の意見が出れば、組織活動がバラバラになるという懸念も出ると思いますが、もちろん、事業活動の支柱となる基本理念は明確にした上で、それに基づいてさまざまな意見が出される方が、成功に近い手法を導きやすくなるでしょう。最後に、ここまで書いてきた組織は、理想的な組織であり、明日からはもちろん、1年後や5年後にも実現することは難しい組織です。ただ、これからの時代は、成果を高めるためには、戦略や戦術の優劣ではなく、どのような組織で戦うかで決まる時代です。したがって、直ちに実現できないとしても、長期的な視点に立って、強い会社の組織づくりを目指すことは避けられないと、私は考えています。

2024/8/17 No.2803