鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

利益を得るための活動から目を背けない

[要旨]

冨山和彦さんによれば、例えば、航空会社では、稼働率を高めることが利益を得る活動になりますが、それを実践するために路線を減らそうとすると、従業員や政治家などから抵抗され、心理的に路線を減らすことから目を背けたくなってしまいます。しかし、その状態を続けていると、会社が存続できなくなるため、本当に実践しなければならないことから目をそらさないよう、トップやミドルリーダーはリーダーシップを発揮しなければなりません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんのご著書、「結果を出すリーダーはみな非情である」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、冨山さんによれば、会社の中の1組織の中にだけいると、部分最適の判断をしてしまいがちなので、中間管理職だけでなく1課員も、会社全体を俯瞰して全体最適の判断ができるようにするための習慣を身に付けることが重要ということについて説明しました。

これに続いて、冨山さんは、組織は膨張することを正当化しやすいので、注意が必要ということについて述べておられます。「どんな組織でも、成長することはあらゆる痛みを癒すので、ついつい、組織膨張を正当化する理屈に傾倒しやすくなる。航空会社なら、やはり、路線を増やしたいと普通は考える。路線を減らすより、増やす方がはるかに楽しいし、痛みを伴わない。減らすのは大変だ。社内的にはリストラや組合との交渉が必要かもしらねいし、社外においては地元経済界が陳情に来るし、政治家があの手この手で圧力をかけてくる。逆に、増やすときは、誰からも諸手を挙げて大歓迎される。

そうすると、より心地よい方向に経営行動はバイアスされやすい。そのバイアスを正当化する理屈を、無意識のうちに人間は探してしまうのだ。本来は、路線を増やすのも減らすのも、稼働率という経済構造に基づいてニュートラルに判断しなければならない。だが、減らすという経営行動は痛みを伴うし、役所や地域との関係でも軋轢を生むため、踏み出しにくい。だから、どうしてもネットワーク拡大の理屈をつけて、それを正当化しようとする。JALでもそういう理屈が横行していた。インテリはそういう小理屈をこねるのはうまい。

そうした意見に惑わされず、真の経済構造を見定めなければならない。(中略)JAL再生のCEOに京セラの稲盛和夫氏が就任した当時、JAL社内には、『稲盛さんのアメーバ経営は、個々の路線の収支を一つひとつ厳密に管理する手法なので、レガシーキャリアのJALにはなじまない』という声が強かった。いわゆる高校産業評論家と言われる人々も同じようなことを言っていた。しかし、航空産業がしょせん、稼働率商売であったことは、JALの業績の急回復という事実が証明している。

私たちがJAL再生タスクフォースで提言したとおり、路線、飛行機、人員という過剰固定費のかたまり約3割を思い切って大削減し、さらには稲盛会長が導入したアメーバ経営で個別路線収支の管理を厳格化したことで、JALは世界で最も高収益な航空会社になっている。東大出だの、MBAホルダーだのがぞろぞろいるJALのような会社でさえ、事業の根本的な経済構造をしっかり理解した上でものを考えるという基本が、必ずしもできていなかったのである」(162ページ)

引用文の中に「アメーバ経営」という言葉が使われています。これは、稲盛さんが考案した、有機的で奥の深い事業管理制度なのですが、ここでは部門別採算管理制度ということでご理解いただいても問題はないと思います。話を戻すと、私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、やはり、冨山さんがご指摘しておられるように、顧客や従業員から抵抗されることは後回しにされるということです。例えば、赤字の会社の要因を調べてみると、当然のことですが、不採算の取引が多くあります。

そこで、事業改善のために最優先される活動は、顧客別の採算を計算し、採算の合わない顧客へは値上げを受け入れてもらうか、または、取引を解消するというものです。しかし、これは、ビジネスパーソンとしては、最もやりたくない仕事です。ですから、そのような会社の経営者は、本当はこのようなことをやらなければならないということを、薄々、感じていながら、採算の合わない条件で取引している顧客に対し、売上を増やす働きかけを続け、それで業績を改善するために努力しているポーズをとります。でも、採算の取れない顧客に対して売上を増やせば、さらに、赤字を増やすことになるだけです。

そこで、真の事業改善のための活動に向き合うことができるようになるためにはどうすればよいかというと、事業活動は利益を得ることが最大の目的であるということから逃げないことです。本旨から外れますが、時々、「当社は社会貢献が第一で、利益のために事業をしているのではない」というようなことを主張する経営者の方がいますが、それでは二宮尊徳のいう「経済なき道徳は寝言である」の状態です。利益を得ることが社会から評価されている証(あかし)であり、社会貢献と利益を得る活動が相反するものであると考えるべきではないでしょう。

社会から評価されている会社だから、利益を得ることができ、事業が継続できると考えなければならないでしょう。話を戻すと、利益を得るための活動を見失ったり、または、目を背けてしまったりすると、事業を継続できなくなることにつながります。だからこそ、トップマネジメント、ミドルマネジメント層は、日頃の活動が本質的なことから外れていないかということに注意を向け、もし、そこから外れる活動をしていれば、直ちに修正できるようにしなければなりません。

2024/8/3 No.2789