[要旨]
前期の売上に計上した商品が、新しい会計期間になって返品されたとき、それが顧客の都合によるものであれば、粉飾ではありません。しかし、販売する側が購入する側と示し合わせた場合、それは粉飾となります。このように、外見上はまったく同じ取引でも、粉飾を疑われる取引もあります。そこで、粉飾を疑われないようにするためには、経理規定を制定し、それに忠実に会計記録を行うことが最善の方法です。
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前回に引き続き、今回も、税理士の大久保圭太さんのPodcast番組を聴いて、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、企業会計原則のうちの真実性の原則は、会社の決算書に真実を反映させることを求めていますが、あまり厳格さを求めると、本来の事業活動の妨げになるため、減価償却費の計算方法は、便宜的なものとなっているということについて説明しました。
それでは、逆に、どのような会計処理は不適切、または、粉飾と呼ばれるのでしょうか?これを説明する前に、報道機関では、「不適切会計」という言葉や「粉飾決算」という言葉を使っています。これらはどう違うのかというと、明確な定義はないようなので、私の考えを述べると、大久保さんのポッドキャスト番組で受けた質問のように、本来なら減価償却費を計上すべきところを計上しないという不適切な会計処理を行うことを「不適切会計」と呼ぶものと理解しています。
一方、強い意思を持って、銀行、債権者、株主などの利害関係者をあざむくために、偽りの取引を行うことを粉飾というと私は考えています。例えば、実際には取引がない架空の売上を計上し、実態以上に利益が得られているように見せる行為が粉飾です。なお、納税額を少なくするために、あえて多くの費用を計上する「逆粉飾」もありますが、ここでは逆粉飾についての説明は割愛します。ただ、私は、不適切会計、粉飾、逆粉飾のいずれも、真実性の原則に反する行為なので、広い意味での粉飾であると考えています。
それでは、話を本題に戻すと、粉飾かどうかを判別することは、厳密には難しいという面もあります。例えば、決算日が8月31日である、衣類卸売業のA社が8月20日に1、000万円の衣類を販売したところ、9月10日になって、それが返品されたとします。A社は、前年の9月1日から今年の8月31日の会計期間の損益計算書を作成しますが、その損益計算書には、9月10日に返品された商品も売上として計上されています。では、A社は粉飾を行ったといえるでしょうか?
これは、A社が、8月20日の売上について、通常の取引として販売し、顧客の都合で返品を受けたとすれば、粉飾ではありません。しかし、A社が、営業成績をよく見せるために、前もって顧客と示し合わせて、9月になったら返品を受け入れる条件で、8月20日の取引を行ったとすれば、それは粉飾と言えます。しかし、商品の返品は、A社の意図したものか、顧客の都合によるものなのかは、会計処理はまったく同一なので、外見からは判別することはとても難しいといえます。
また、銀行が、返品があった事実を知った場合、特に、A社の業績が下がり気味であったり、赤字であったりする場合は、粉飾をしている可能性があると判断されてしまうでしょう。この例は極端なものですが、通常の会計記録をしていても、粉飾に疑われるということは、100%防ぐことはできないと、私は考えています。それでは、どうすればよいかというと、中小企業では、中小会計指針、または、中小会計要領に基づいて経理規定を定め、それに忠実に会計処理を行うことです。
さらに、月次、または、四半期(3か月)ごとに試算表を作成し、銀行などの利害関係者に提出することです。このようなことをしても、完全に、粉飾を行ったと疑われることを避けることはできませんが、少なくとも、強い意思をもって粉飾をしようとしたとは疑われることはないでしょう。もちろん、意図して粉飾を行った場合は、100%の粉飾です。このようなことは決して行ってはなりません。粉飾をするとき、「会社を守るため」という考えを持つ経営者の方もいると思いますが、会社を守る方法は、粉飾ではなく、事業の要改善点を直視し、それに実直に対処することです。
2024/7/20 No.2775