[要旨]
ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、ブランドづくりのためにミッション等を初めて策定した会社では、従業員が辞めていく可能性があるそうでが、多くの経営者は、それでもブランドづくりを進める覚悟をされるそうです。なぜなら、自社ブランドの価値観にどうしても合わせられない従業員がいたままでは、ミッションやビジョンを実現することは困難だと、直感的に理解できているからだということです。
[本文]
今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、ミッションをつくった後は、経営者自身が真っ先にミッションを実践し、自らに浸透させようとする姿勢を従業員に見せることで、覚悟や本気度が伝わり、徐々に従業員に浸透していくのであって、先に従業員に実践させるようなことをすると、社内にミッションは浸透せず、ブランディングは成功しにくくなるということについて説明しました。
これに続いて、渡部さんは、ブランドづくりを進めてるにあたって、価値観の合わない従業員が会社を去ることがあるということについて述べておられます。「本章の最後に、最も重要なことをお伝えさせてください。それは、ミッション・ビジョン・バリューを初めて策定した会社では、従業員が辞めていく可能性があるということです。私の経験上、勤続年数が短い人より、古株の従業員が辞めていくケースの方が多いように感じます。その理由は、いままでぼんやりとしていた仕事の目的(ミッション)や目標(ビジョン)が明らかになるだけでなく、自社ブランドとして目指す方向性が明確になるため、『自分の価値観と違う』と感じる人は必然的に辞めていかざるを得なくなるのです。
そのため、私は、ミッション・ビジョン・バリューを策定する前、経営者に次のような確認を取ります。従業員が辞める可能性があること、さらにそれが社内では古株で重要なポジションの方である可能性があること。それらを伝えた上で、それでもブランドづくりを進めるのかを決めていただくのです。そういう話を聞いて、『いえ、人に辞められると仕事がまわらないので、まだ、その時期ではない』と、ブランドづくりを保留される方もいらっしゃいます。しかし、多くの経営者は、それでもブランドづくりを進める覚悟をされます。
なぜなら、自社ブランドの価値観にどうしても合わせられない従業員がいたままでは、ミッションやビジョンを実現することは困難だと、直感的に理解できているからです。舟でたとえると、東へ向かうために全力でオールを漕いでいるのに、一部の人間だけが休んでいる、あるいは反対方向へ向かってオールを漕いでいるような状態です。これでは目的地にたどり着くことは不可能でしょう。また、これは価値観の合わない従業員にとっても同じことが言えます。
自分の価値観とどうしても合わないような会社に居続けることが、果たしてその人にとって幸せなことなのでしょうか?自社ブランドのこと、そして、従業員のことを考えると、答えはひとつです。ジム・コリンズ氏の『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』にはこう書かれています。“偉大な企業は、適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、次にどこに向かうべきかを決めている”応援されるブランドにとって『適切な人』と『不適切な人』とは誰なのでしょうか?それは、ミッション・ビジョン・バリューを策定しない限り、誰にもわからないことなのです」(166ページ)
今回の渡部さんのご指摘も、ほとんどの方がご理解されると思います。そして、これは、ブランドづくりに限らず、事業改善など、新たなことを始めようとするときにもあてはまることだと思います。ただ、冷静に考えれば、経営環境は常に変化しているわけですから、事業もそれに合わせて適応させていかなければならないことは当然であり、さらに、従業員の方も、事業に合わせて成長しなければならないことも当然です。ただ、人は心の深いところでは変化を嫌う習性があるので、経営者の方は、従業員の方に対して、変化に積極的に臨むことができるように、常に働きかけなければなりません。
しかし、会社によっては、経営者自身が変化を嫌うことがある(表面的には改善することは大切だと口にしてはいても、行動がともなわない場合も含みます)ので、その時点で、その会社の業績の改善は期待できないでしょう。また、経営者の方が懸命に改善は大切だと説いていても、従業員の方の中には、どうして反発する人な残ってしまうこともあるでしょう。私は、このことは完全に避けることはできないと思っています。
だからこそ、渡部さんも「ミッション・ビジョン・バリューを策定しない限り、誰にもわからないこと」と述べておられるように、会社の価値観を明確にすることで、それに合わない従業員の方を、なるべく早く把握できるようにすることが大切だと思います。価値観の合わない人がいることは避けることはできませんが、自社の価値観を明確にすることによって、それに合わない人に対して、早い段階から対策を講じることが可能になります。今回の話をまとめると、経営者の方は、自社の価値観を明確にし、従業員の方たちの足並みを揃えるようにすることで、効率的な事業活動が遂行できるようにする役割が求められているということです。
2024/7/14 No.2769