[要旨]
ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、ブランディングには外部のステークホルダーに向けたエクスターナルブランディングと、内部の役職員に向けたインターナルブランディングがあるそうです。そして、インターナルブランディングがあまり実践されないことによって、社内にブランド・アイデンティティが浸透していないと、顧客にもそれが伝わらず、ブランディングが奏功しないことになります。
[本文]
今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。(ご参考→ )前回は、渡部さんによれば、頭痛がする人が、薬局に薬を買いに行った時、「下痢にも効いて、頭痛にも効いて、風邪にも効く薬」と、「頭痛専用の薬」の2つの選択肢があれば、「頭痛専用の薬」が選ばれる、すなわち、「何でもできる」は「何もできない」と顧客に認識されてしまうので、「自分が何屋なのか」、「何の専門家なのか」が、顧客に明確に伝わるようにすることが重要ということについて説明しました。
これに続いて、渡部さんは、ブランディングは外に向けたブランディングだけでなく、社内に向けたブランディングも大切であるということについて述べておられます。「実は、ブランディングには、2つの種類があります。ひとつは、社外に向けたブランディング。これをエクスターナルブランディング、またはアウターブランディングと言います。対象は、お客様だけでなく、取引先や地域社会、金融機関、求職者など、あらゆるステークホルダーです。
そして、もうひとつは、社内に向けたブランディング。これを、インターナルブランディング、または、インナーブランディングと言います。対象は、社内で働いている人すべてです。経営者や経営幹部、従業員、もちろん、パートやアルバイトの人も含みます。ブランディング活動の内容は、共に、『自社ブランドはこう思われたい』という、ブランド・アイデンティティの浸透です。(インターナルブランディングの場合、最終的には、ブランド・ビジョンの達成につなげていきますが、ここではその前にあるべき状態として表現しています)(中略)
仮に、まだ、ブランド・アイデンティティ(自社ブランドの独自性のある価値)が社内に浸透していない状態で、社外へのブランディングを優先するとどうなると思われますか?これは、伝言ゲームをイメージしていただくとわかりやすいでしょう。伝えるべき価値が浸透していないということは、価値を絞り込めていないということ。その場合、人を介せば介するほど、誤った内容が伝えていきます。
また、社内にブランド・アイデンティティが浸透していないということは、それぞれの従業員が思う自社ブランドの価値を、それぞれの感性でお客様に伝えているのです。これでは特定の記憶のコップに水を注いでいくことはできません。さらにまずいのは、従業員の感情によって発信する内容が変わること。人は同じ言葉を投げかけられても、気分のよい時とよくない時では受け取り方が違うように、従業員の感情の起伏によって、お客様への伝わり方が変わってくるのです。
簡単に言うと、機嫌のよい時と悪い時で言うことが変わるのです。これはもうブランドにとってマイナス以外の何者でもありません。ブランド・アイデンティティはつくって終わりではなく、つくってからがスタートです。社内への浸透活動をおろそかにして、社外へのブランディング活動を進めると、従業員の感性とその時の気分でホームページやパンフレットなどをつくっていくことになります。
中には的を射たものもできるかもしれませんが、たいていの場合、それらのブランディングツールはすぐに使い物にならなくなり、つくり直しになってしまいます。なぜなら、自社ブランドが伝えたい価値が社内に浸透していないからです。とくにデザインを外部のパートナーに任せている会社には顕著に現れます。ですので、ブランド・アイデンティティの浸透は、まず、社内から始めること。これがブランディングでつまずかないための2つ目の方法です」(115ページ)
今回の渡部さんのご指摘も、ほとんどの方が容易にご理解されると思います。ブランドは、顧客の心の中にあるわけですから、ブランドを認識してもらうためには、商品やロゴだけに工夫をすれば足りるということではありません。それを製造したり、販売したりする従業員の方たちのスキルや応対力も、ブランドを認識してもらうための重要な要素であるということは言及するまでもありません。
そうであれば、インターナルブランディングが重要であるということは明らかです。そして、自社の販売する商品は、有形の商品よりも、無形のベネフィットや顧客体験価値も含まれる、むしろ、無形の部分が重要であると考えれば(このような考え方を、サービスドミナントロジックといいます)、インターナルブランディングは、商品価値を高めたり、競争力を高めたりする活動そのものであると言えます。
ただ、従業員のスキルや能力を高めるためには、時間と労力、特に、育成のためのスキルやノウハウが必要になるため、多くの会社では、エクスターナルブランディングだけに偏ってしまうと考えられます。繰り返しになりますが、ブランディングでは、エクスターナルブランディングよりもインターナルブランディングの重要性が高いと私は考えています。したがって、経営者の方は、事業の競争力を高めるためには、インターナルブランディングを遂行する能力を身につけ、それに注力していくことが欠かせません。
2024/7/10 No.2765