鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

顧客の記憶のコップに水を注ぐ活動

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、ブランドの世界観を伝える体験のことを「ブランド体験」と呼び、ブランド体験は、ホームページ、SNS、パンフレット、チラシ、店舗デザインや接客などで、ブランドの世界観を表現するものです。そして、顧客は、それらのブランド体験に振れることで、自身の心の中にある記憶のコップに水を貯めていきます。このコップは無数にあり、「飲食店」というような大きな括りではなく、「和食」、「中華」、「フレンチ」、「ファストフード」など、細かく分類されているイメージであるということです。


[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、ランド戦略は、コミュニケーション戦略だけでなく、ミッション・ビジョン・バリューという土台を具体化させた経営戦略とマーケティング戦略を総称したものだということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、ブランドは会社のものではなく、顧客のものであるということについて述べておられます。「ブランドをつくる上で抑えておいていただきたいのが、ブランドは自分たちのものではない、ということです。『ブランドをつくったのも育てたのも、自分たちなのになぜ?』と思われるかもしれません。これは、ブランディングの定義を思い出していただくとわかりやすいでしょう。(中略)ブランディングとは、企業側の『こう思われたい』と、お客様の『こう思う』をイコールにするための活動と定義しました。

そのために必要なのが、企業側の『こう思われたい』を言語化したブランド・アイデンティティです。そして、そのブランド・アイデンティティに沿って、ブランド名やロゴ、ブランドの基調色、パッケージなどを設計しています。これらはブランドを識別するための最小単位のものであり、『ブランド要素』と呼ばれるものです。これらの要素を使い、お客様との接点を設計していきます。その接点において、ブランドの世界観を伝える体験のことを『ブランド体験』と呼びます。

ブランド体験は、ホームページやSNSなどのデジタル空間、パンフレットやチラシなどのアナログ空間、店舗デザインや接客などのリアル空間において、ブランドの世界観を表現するものです。そして、お客様はそれらのブランド体験に振れることで、自身の心の中にある記憶のコップに水を貯めていきます。このコップは無数にあり、例えば、『飲食店』というような大きな括りではなく、『和食』、『中華』、『フレンチ』、『ファストフード』など、細かく分類されているイメージです。

例えば、あなたがランチを食べに出かけるとします。(1)自分ひとりでさっと短時間で食べたい。(2)友だちとゆっくりお話ししながら食べたい。(3)遠方から来た大切なお客様をもてなしたい。恐らく、(1)~(3)のそれぞれで異なるお店を思い浮かべたのではないでしょうか?仮に、友だちとランチを食べるのであれば、その友だちはどのような食べ物が好きなのか、あるいは、苦手なのかを考えていくと、お店の候補はさらに分類されていきます。

ブランディングとは、言葉を変えると、“お客様の記憶のコップに水を注いでいく活動”です。ただし、闇雲に水を注いでも意味がありません。注意していただきたいのが、ブランド側が意図したコップに水を注ぐということです。例えば、吉野家が、『高級な牛丼』という記憶のコップに水を注いだとすれば、いかがでしょうか?恐らく、ミスマッチなお客様が集まると思います。注ぐべきなのは、『うまくて、安くて、早く提供してくれる牛丼』という記憶のコップです。

また、記憶のコップは、一つひとつのグラスが独立しているため、毎回バラバラのコップに水を注いでいては、いつまで経ってもお客様の記憶に定着することはありません。短期的な成果を求めるマーケティング施策であれば、キャンペーンごとに伝えるメッセージを変えることがあります。刺激的な言葉を使えば選ばれる可能性はありますが、特定の記憶のコップに水は貯まりません」(102ページ)

渡部さんが繰り返しお伝えしておられるように、ブランドは顧客の心の中にあるわけですが、会社が持っていると考えている経営者の方もいるため、その前提でブランド戦略を実践しようとすると、期待した結果は得られなくなります。このことは、前提を誤れば、ブランド戦略の成果も得られないということで、当然のことですが、もう1点、注意が必要なことは、ブランドは顧客の心の中にあるとう前提でブランド戦略を実践する場合であっても、適切な活動が必要になるということです。

このことについて、渡部さんは、「吉野家が、『高級な牛丼』という記憶のコップに水を注いだとすれば、いかがでしょうか」とご指摘しておられます。このようなミスマッチが起きないようにするための枠組みに、マーケティングの4Pというものがあります。これは、米国の経営学者、マッカーシーが提唱した考え方です。具体的には、製品(Product)に関する活動、価格(Price)に関する活動、流通(Place)に関する活動、販売促進(Promotion)に関する活動の、4つの活動ごとに最適の活動を選択し、それを組み合わせてマーケティング活動を行うことが大切という考え方です。

そこで、「うまくて、安くて、早く提供してくれる牛丼」という製品に対して、「高級な牛丼」という販売促進活動を行うという組み合わせは適切ではなく、ブランド戦略も奏功しないか、または、逆効果をもたらすことにもなりかねません。今回の話をまとめると、(1)ブランドは顧客の心の中にあるという前提でブランド戦略を実践すること、(2)ブランド戦略を実践するにあたっては、製品と販売促進活動の間に齟齬がないようにするなど、適切な組み合わせで行わなければならないということです。

2024/7/8 No.2763