鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

売上上位20%のお客様に寄り添う

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、必ずしも、すべての顧客から応援されることを目指すのではなく、現在、自社を評価している顧客、すなわち、売上上位20%の顧客に対して応援されるための働きかけを行うことが妥当ということです。これは80対20の法則に基づく活動であり、20%の顧客との関係を深めることで、顧客生涯価値(LTV)を高めることができるということです。


[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、顧客が自社を応援する段階は4つあり、それは、(1)購入→(2)リピート→(3)知人にポジティブな紹介をする→(4)改善のためのアイディアなどをフィードバックしてくれるというものであるということを説明しました。

これに続いて、渡部さんは、応援ブランドを目指すには、売上上位20%のお客様に寄り添うことが必要ということについて述べておられます。「『応援されるブランド』と言うと、すべてのお客様に応援されているような印象を受けますが、実際に応援してくれる人の数は多くはありません。いずれのブランドでも、最初は極少人数の応援から始まります。人数は少なくても、売上などの貢献ベースで分析すると、その大部分が応援してくれる人たちで占められていることが多いのです。あなたはこんな話を聞いたことはありませんか。

『売上の80%は、20%の商品から生み出されている』『成果の80%は、20%の社員が生み出している』『成果の80%は、20%の業務時間で生み出されている』これは、イタリアの経済学者、ヴィルフレド・パレートが発見した冪乗則(べきじょうそく)で、『80対20の法則』と呼ばれるものです。冪乗則と言うとわかりづらいので、ここでは経験則と表現します。経験則とは、実際に起きていることから規則性を見出したことによって生まれたものですが、もちろん、すべての現象において当てはまるものではありません。ただ、こと顧客別の売上構成で考えると、多くの業種において、この法則が当てはまります。(中略)

応援されるブランドを目指すということは、言葉を変えると、売上上位20%のお客様に寄り添うということです。その人たちのブランドに対する満足度を、さらに高めていくのです。『新規客に販売するコストは、既存客に販売するコストの5倍かかる』というマーケティングの『1対5の法則』にもあるように、新規客に売るより、既存のお客様に再び購入してもらう方が、圧倒的なコストの削減につながり、その結果、利益率が自然と高まります。さらに、そのお客様は、すでにブランドのことを気に入って応援してくれている人です。

当然、ひとりのお客様が起業にもたらす価値(売上)の総量が増えます。マーケティング用語で言うと、LifeTimeValue(顧客生涯価値)が高まるのです。それだけではありません。あなたのブランドの売上を支えてくれているお客様に集中するということは、あなたのブランドの価値を1番理解してくれている人と、密に接するということです。つまり、あなたのぶらんどのことが好きな人たちにだけ力を注ぐのです。考えただけでもワクワクしてきませんか」(55ページ)

80対20の法則は広く知られていると思いますが、改めてその効果について考えてみたいと思います。売上1億円、利益1,000万円(利益率20%)の会社、A社には、顧客が100人いるとします。そして、A社の顧客1人当たり、1万円の広告費を使うと、売上を10%増加することができると仮定すると、100人の顧客全員に1万円ずつ、計100万円の広告費を使うことによって、売上は1億1,000万円、利益は2,200万円になります。

しかし、広告費100万円を使っているので、ネットの利益は2,100万円になります。ところが、同社の売上上位20人の顧客の売上が8,000万円だとすると、その20人に対してだけ、1人1万円、計20万円の広告費を使うと、売上は1億800万円(=1億円+8,000万円×10%)に増加し、利益は2,160万円になります。ここから広告費20万円を引いたネットの利益は2,140万円となり、顧客全員に対して広告費を使うよりも、効率の良い販売促進が実践できたことになります。

さらに、100万円の広告費を上位20人の顧客に対して使うと、売上は1億4,000万円(=1億円+8,000万円×10%×(100万円÷20万円))に増加し、利益は2,800万円、広告費を差し引いたネットの利益は2,700万円になります。これは、単純化したモデルですが、売上の多い顧客に対して販売促進をすることは効率が高いということが分かります。この論理はほとんどの方が理解できると思うのですが、中小企業でこれを実践している会社は、あまり多くないと、私は感じています。

その理由のひとつは、上位20%の顧客を把握できていないからです。肌感覚では得意客は把握できていますが、1か月ごと、または、1年ごとに顧客別の売上を集計していなければ、大口顧客以外の顧客になると、上位何%の顧客になるのかがわからなくなります。また、顧客ごとの利益まで把握していなければ、大口顧客であっても、実は、不採算の取引先であったということもあります。理由の2つ目は、クレーム対応にばかり追われて、本来、優先すべき上位顧客への対応が後回しになっているということが挙げられます。

クレームには対応しなければなりませんが、そのクレーム対応への費用を加味した結果、採算が取れていなければ、その顧客との取引は解消した方が、会社の利益を増やすことになります。ただ、理屈ではそれがわかっていても、顧客に接している現場では、「クレームにはすぐに対応しなければならない」、「取引額がそれほど大きくなくても、取引がなくなることは避けなければならない」という意識が働き、なかなか適切な決断ができないということがあります。

そこで、顧客ごとの採算管理や、取引先の見直しを、定期的に行うことが大切です。話をブランドに戻すと、自社のブランドを高めるためには、自社商品、及び、自社を支援してくれる顧客に対して、さらに関係を深めることが基本です。そうであれば、現在、自社を評価してくれている顧客に対して集中的に関係を深める働きかけを行うことが重要です。だからこそ、顧客を管理する体制整備と、それに基づいた関係強化を実践できるようにする能力を備えることが鍵になります。

2024/7/1 No.2756