[要旨]
ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、顧客が自社を応援する段階は4つあり、それは、(1)購入→(2)リピート→(3)知人にポジティブな紹介をする→(4)改善のためのアイディアなどをフィードバックしてくれるというものだそうです。したがって、自社のブランドを確立するためには、自社にフィードバックをしてくれる顧客を増やすための関係強化の取り組みをすることが必要です。
[本文]
今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、日々、様々なマーケティング情報に晒されている結果、消費者はマーケティングに対するリテラシーが高まったり、マーケティングへの嫌悪感が高まったりするようになり、このことによって、消費者は企業発の情報を求めてもいないし、信じてもいないようになっていることから、現在は、真の意味のマーケティングを実践しなければならなくなっているということについて説明しました。
これに続いて、渡部さんは、渡部さんの定義する「応援ブランディング」とはどのようなものかということについて述べておられます。「私たちがビジネスを行う上で一番の応援は、やはり、商品やサービスを『購入』してくださることでしょう。(中略)一番下の階層(1)となります。この購入には、クラウドファンディングやふるさと納税のような支援に近い応援購入と、その商品やサービスが必要であったり、気に入ったから手に入れる通常購入があります。
いずれにしても、その商品やサービスに“好感”を持ってもらわないと購入されませんが、一度だけであればハードルはさほど高くありません。セリング(売り込み)で十分対応できる領域です。その次の階層(2)は、一度購入した商品やサービスを再び購入していただく『リピート』です。リピートはその商品やサービスにある程度“共感”してもらわないと発生しないため、マーケティング(売るための仕組みづくり)が必要となってきます。
さらにひとつ上の階層(3は、商品やサービスを購入した上で、ポジティブな意見を周りに広めてくれる『口コミ』や、周りの人に対して積極的に薦めてくれる『紹介』です。ちなみに口コミは、デジタル上でレビューを書いたり、リアルな場でまわりに口頭で伝えることも含まれます。この階層まで上がると、その商品やサービスに対して、“共鳴”していないと行動が生まれないため、ブランディングの領域に入ってきます。そして、一番上の階層(4)では、対象ブランドに対して改善点や評価、アイディアを伝えてくれるなどの『適切なフィードバック』が行われます。
ここまでくるとお客様自身がブランドの関係者という意識を持ち、ともに新たな価値を創るという“共創”の精神が生まれているため、応援ブランディングの領域となります。これらを統合し、本書では『応援』を次のように定義します。“対象ブランドの商品やサービスを購入したり、口コミやまわりの人に紹介するなど、ブランドにとってポジティブな行動を能動的におこすこと”ポイントは“能動的に”という部分にあります。企業側がお願いするのではなく、お客様が自ら考え、ポジティブな行動を起こしてくれるようになることが、真に応援されるということなのです」(52ページ)
ブランドは、商品そのものの競争力が高いことが必要ですが、それだけではブランドが確立できるわけではありません。商品がリピート購入され、口コミで知人の評価を広めてもらえるようになったりする必要があります。そのような段階になると、顧客からの評価は、商品そのものへの評価ではなく、ブランド(または、それを販売(製造)している会社)への評価ということになります。したがって、自社と顧客との関係が「階層(4)」に至るようになるためには、そのための仕組みを整えておく必要があります。
その方法は、商品によって様々であり、ひとつだけではありませんが、例えば、味の素冷凍食品が、SNSのX(旧Twitter)で、同社の製品の餃子を評価している消費者から、1,000個以上のフライパンを集めたという事例が参考になると、私は考えています。なぜ、1,000個のフライパンが集まったのかというと、同社は、Xで、次のような投稿をしたからです。「突然のご連絡を申し訳ありません。フライパンで弊社のギョーザを焼いたところ、張り付いてしまったとのツイートを拝見いたしました。
弊社は、誰でも失敗なく、羽根つきギョーザが焼き上がる感動をお届けすることを目指しております。大変勝手なお願いでご面倒おかけいたしますが、このたび調理にご使用いただきましたフライパンを、着払いにてご提供いただけないでしょうか?焦げ付いてしまうフライパンの状態を確認させていただき、研究・開発に活用させていただきたく考えております」すなわち、味の素冷凍食品はよい製品を開発したいという思いをXに投稿し、それに呼応して同社を応援したいという消費者から1,000個のフライパンが届いたのでしょう。
ここで私が伝えたいことは、味の素冷凍食品は1,000個のフライパンを送ってもらえるほど評価されているということではなく、よい製品をつくりたいという思いを消費者に伝えているということです。もちろん、商品そのものの品質も大切ですが、その品質を高めるためには、自社を応援してくれる消費者を増やすための取り組みをしているということです。繰り返しになりますが、現在は、よい商品をつくる、すなわち、競争力を高めるためには、消費者に応援してもらうための働きかけが重要になっているということです。
2024/6/30 No.2755