鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

Z世代は企業発の情報を求めていない

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、日々、様々なマーケティング情報に晒されている結果、マーケティングに対するリテラシーが高まったり、マーケティングへの嫌悪感が高まったりするようになりました。すなわち、消費者は企業発の情報を求めてもいないし、信じてもいないようになっていることから、現在は、真の意味のマーケティングを実践しなければならなくなっています。


[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、応援されるブランドをつくるには、まずブランドが提供する価値を理解してくれそうな従業員に絞り込み、自らの熱を伝えることから始め、全体に周知する段階では社内に2割ほどの共感者が必要ということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、現在は、企業のマーケティングは、多くの消費者に見透かされているということについて述べておられます。「私たちは、日々、生活をする上で、様々なマーケティング情報に晒されています。例えば、SNSを開くとソーシャルメディアマーケティング、YouTubeを見ていると動画マーケティング、仕事でメールを使うひとはメールマーケティングなど、あらゆるシーンで、半ば、強制的にそれらの情報を受け取らされているのです。

そして、繰り返し、それらのマーケティング情報に晒されることで、多くの人はある能力を手に入れました。それは、マーケティングに対するリテラシー。要は、『何がマーケティングで、何が真実なのか』、直感的に識別できるスキルを手に入れたのです。また、そのスキルを手に入れられなかった人はどうなったのでしょうか?マーケティングへの嫌悪感が高まり、それらの情報に対するアレルギー反応を起こすようになりました。そのような人たちは、マーケティング臭がきつい情報を自然と避けるようになったのです。

現代経営学の父、ピーター・ドラッカーいわく、『マーケティングの究極の目標は、セリング(売り込み)を不要にすること』にもかかわらず、それらの情報に晒され続けた私たちは、マーケティングをただのセリング(売り込み)として感じていることの方が多いのです。マーケティングに対するリテラシーが高まり、一方で、アレルギー反応を起こす人もいる中、企業発のマーケティングは、ますます効きにくい時代に入ってきています。

とくに、今後の消費を牽引するZ世代(1990年代半ば~2010年代生まれの世代)は、物心のついたころから、インターネットに触れていて、SNSが当たり前の世代です。誰もが発信力を持つ中で、企業発の情報を鵜呑みにするようなことはありません。これまでのように、企業が芸能人や有名人を起用して商品をお薦めしたとしても、Z世代は他の世代と比べてあまり買わないことがわかっています。つまり、企業発の情報を求めてもいないし、信じてもいないのです」(48ページ)

本旨から少し外れますが、公益社団法人日本マーケティング協会は、2024年1月に、34年振りにマーケティングの定義を次のように刷新しました。「(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」とはいえ、この定義は抽象的であり、私はドラッカーの述べているように、「マーケティングの目的は、売り込みを不要にすること」という理解で問題ないと思います。

ただ、ビジネスパーソンの中には、マーケティングとセリング(販売活動)をほぼ同じと考えている方が多いようであり、私はこのことを残念に感じています。それでは、なぜ、セリングとマーケティングが混同されてしまうのかというと、マーケティングは難易度が高く、また、その具体的な方法もイメージしにくい一方で、セリングはイメージしやすく、また、成功するかどうかはともかく、実践することは比較的容易なため、マーケティング→売上を増やすための活動→セリング、というように連想されてしまうのではないかと思います。

しかし、前述したように、ドラッカーは、「マーケティングの目的は、売り込みを不要にすること」と述べているにもかかわらず、マーケティングで不要にしようとする活動であるセリングがマーケティングであると、多くの人に認識されていることは、皮肉なことだと思います。では、具体的なマーケティングとはどういうことかというと、これを実践している会社の割合は低いかもしれませんが、実践している会社の数は決して少なくありません。

1つ例を挙げると、私は、宮城県仙台市にある「主婦の店さいち」(以下、単に「さいち」と記します)です。さいちは年商約7億円のスーパーマーケットですが、看板商品のおはぎが売上の約6割を占めるそうです。おはぎは、数でいうと、1日5千個から、多い日では2万個も売れるそうです。このおはぎは添加物を使わず、砂糖と塩だけで味付けし、材料である小豆と米の本来のおいしさを引き立たせているそうです。

その結果、チラシも出さず、特売も行っていないそうです。このように、さいちでは「売り込み」をしていないのですが、それは、おはぎを始めとした総菜の味、すなわち、商品の魅力を高めることで実現しています。ただ、繰り返しになりますが、このような商品をつくることは、難易度が高いことも事実です。その一方で、渡部さんもご指摘しておられるように、消費者は、マーケティング(実際にはセリングですが)に嫌悪感を示すようになっています。

そして、当然のことながら、顧客に嫌悪感を示されれば、よい関係は構築できず、事業は長続きできなくなります。したがって、直ちに、さいちのような魅力の高い商品は開発できなくても、少なくとも、マーケティングを正しく理解し、それを実践していくことが、労力はかかるものの、顧客に嫌悪感を持たれず、事業を長続きさせることができる最短の道だと、私は考えています。

2024/6/29 No.2754