[要旨]
ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、応援されるブランドをつくるには、まずブランドが提供する価値を理解してくれそうな従業員に絞り込み、自らの熱を伝えることから始め、全体に周知する段階では社内に2割ほどの共感者が必要ということです。すなわち、ブランディングの確立は、「ゼロ」の段階からスタートするので、効果が得られるまでは、経営者の方が先頭に立って活動を牽引していく必要があります。
[本文]
今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、ブランディングは短期的なマーケティング施策ではなく、長期的な視点に立った未来への投資と考えなければならないため、ブランディングを成功させるためには、労力と時間を要するという前提で取り組む必要があるということについて説明しました。
これに続いて、渡部さんは、応援されるブランドをつくるには、2割の共感者が必要ということについて述べておられます。「応援されるブランドをつくるには、まずブランドが提供する価値を理解してくれそうな従業員に絞り込み、自らの熱を伝えることから始めます。全体に周知する段階では社内に2割ほどの共感者が必要というのが和田さん(渡部さんがご支援している、不動産デベロッパーの代表)の経験則です。
その割合の理由は、全員が理解できるような一般化した価値であれば、それはすでに市場に浸透しており、飽和状態にある可能性が高いからです。そのため、最初の段階では、ブランドの価値を理解できない人が多いほど、そのブランドは成長する可能性が高いとも言えます。事実、今回の分譲プロジェクトにおいても、最初の共感者はその程度の割合だったそうです。そして、その後には、ブランドの価値をビジュアルや行動に落とし込み、社外へ伝えていくブランディングの実務者が必要となります。
もちろん、共感者と実務者は同一人物でも構いません。それと同時進行で、社内外におけるブランドの共感者を少しずつ増やして行きます。徐々に共感者の母数を増やしていくのです。そのためには、従業員やお客様を含めたステークホルダーだけでなく、地域や社会がよりよくなるような未来を描き、見せ続けること。それこそが応援され続けるブランドを牽引する経営者の役割なのです」(43ページ)
前回は、ブランディングは未来への投資であり、ブランディングを成功させるためには、労力と時間を要すると述べましたが、そうであれば、当然、ブランディングが確立するまで、経営者はそのための活動を管理していかなければなりません。また、ほとんどの場合、ブランディングは「ゼロ」の状態から開始するので、渡部さんが述べておられるように、ブランドの価値に共感してくれる方は、従業員も含めて少数葉であるということです。
すなわち、自社のブランドは、それを活用しようとする段階で、すでに支持者がたくさんいるわけではなく、むしろ、誰にも関心を持たれていない状態から、関心を持ってもらうための活動をしていくことになります。このことは、ブランドを確立しようとする会社の障壁になっていますが、逆に、ブランドが確立できれば、他社との差別化を図ることが容易になり、ブランドを確立するまでに要した労力を上回る利益を得ることが期待できます。また、現在は、前回も述べたように、商品そのものでライバルとの差別化を図りにく時代ですので、ブランドを活用する必要性も高まっています。
そして、ここまで述べてきたことからも分かるように、現在の事業は一朝一夕には成果が得られない時代になってきていると言えます。思いつき的に起業しても(新しい事業に進出しても)、よほどの幸運に恵まれなければ成功はしません。それがよいか悪いかはともかく、繰り返しになりますが、現在は、きちんとした準備をして、それなりの期間をかけて事業に取り組まなければ成功しなくなりつつあるということが、ブランディングという活動を例にとって理解できると思います。
2024/6/28 No.2753