[要旨]
クラウドファンディングは、多数のネット参加者の数パーセントの人から賛同してもらえれば、十分な資金を集めることが可能になり、銀行の融資業務にとってかわる可能性があります。ただし、クラウドファンディングを利用できる事業は限定的であり、当面は、銀行の融資業務のすべてに代替できるわけではなさそうです。
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今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、株式投資をするときは、上場している会社の決算書(有価証券報告書)をインターネット(EDINET)で閲覧できるので、純資産の大きい会社の株式を選ぶことが妥当といえ、また、このような方法は、銀行が行う融資審査においても行われているということについて説明しました。
これに続いて、高橋さんは、クラウドファンディングの活用について述べておられます。「テレビドラマでは、零細企業の経営者が、資金を得るために銀行に頭を下げて回る、といったシーンがよくある。銀行の融資担当者が、その企業の将来性を見込まなければ、融資はしない。あるいは、融資担当者が『ぜひ融資を』と考えても、支店長に却下される可能性もある。だから、資金を得たい経営者は、銀行で土下座してでも、融資を認めてもらおうとするのだ。
でも、クラウドファンディングの場合、全世界のネット人口に向かって出資を呼びかける。テレビドラマのなかで四苦八苦している経営者も、みんなクラウドファンディングをしてみればいいのだ。(そうなると、昔から何度も繰り返されてきた『話のわかる融資担当者との感動物語』は成立しなくなってしまうが)
もし、クラウドファンディングをしても資金が集まらなかったら、その事業には、よほど将来性がないということだ--と断言することは神様しかできないが、全世界、幾万の出資者たちの判断と思えば、事業主のほうも諦めがつくだろう。直接取引のクラウドファンディングでは、途方もないネット人口のうち、数パーセントでも賛同してくれる人がいれば、立派に資金集めができる。そんななか、銀行の融資業務は『中抜き』され、存在価値をほとんど失う日も近いと見た方がいい」(102ページ)
私も、高橋さんが述べておられるように、資金を集めたい会社と、その会社の事業を支援したいという人たちの間での、直接の資金のやり取りが活発になった方がよいと思っています。しかし、それは、直ちには難しいと、私は考えています。その理由の1つは、いわゆる「目利き能力」の発揮は、限定的になるということです。高橋さんが述べておられるように、ネット参加者に事業を評価してもらうことで、その会社の事業の将来性が適切に判断されることは間違いないと思います。
でも、クラウドファンディングは、あくまでインターネット経由でネット参加者が事業を評価するので、やはり、限界があります。もちろん、銀行の目利き能力が完全とは言えませんが、それでも、直接、経営者と接して事業を評価する銀行の判断の方が、より制度の高い評価を行うことができるでしょう。
2つ目は、クラウドファンディングは前向きな融資しか行えないということです。もし、クラウドファンディングで「当社はいま赤字なので、業績を挽回するまでの資金不足を融資してほしい」と、融資を募っても応じる人はいないでしょう。もちろん、銀行も、赤字の会社に対して、必ずしも融資に応じるとは限りませんが、銀行の方が、クラウドファンディングでは応じられない融資に応じる可能性が高いでしょう。
3つ目は、銀行は、業績が悪化した会社の再生支援ノウハウや、事業が行き詰った会社の融資回収ノウハウがある一方で、ネット参加者にはそれがないということです。すなわち、銀行は融資取引に関するノウハウがあるために、果敢に融資に応じることができる面がありますが、クラウドファンディングの場合、その性格上、少額でしか出資ができないため、比較的事業規模の小さい会社でしか利用できないということです。
この他にも、銀行の融資と比較して、クラウドファンディングには限界のある面があります。と、ここまで私は、クラウドファンディングに否定的なことを書きましたが、クラウドファンディングには、あまり収益が見込めなくても、公共性が高い事業の場合、支援をしてもらえる可能性あるという点では、積極的に活用する手法だと思います。ただ、高橋さんの述べておられるように、「銀行の融資業務の存在価値が失われる日」は、残念ながら、まだ時間がかかると思っています。
2024/6/22 No.2747