[要旨]
経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、業績が悪化した会社の経営者から、業績を挽回するために、他の事業もやってみたいというご相談を受けることが多いということですが、現在の事業で手一杯の状態で、新たな事業に取り組んだとしても、その事業を成功させることは難しいということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、中小企業経営者は見栄を気にすることから、業績が悪化したときに、撤退する決断をすることがなかなかできないことから、あらかじめ、事業を撤退する基準を従業員の方たちなどに公表しておき、基準通りに判断せざるを得ないような仕組みを作っておくことが望まれるということを説明しました。
これに続いて、板坂さんは、本業が不振になったとき、安易に、別の事業に手を出すことは避けるべきということについて述べておられます。「私のところには、よく、『今の商売がうまくいかない』という悩みを抱えた中小零細弱小家業の社長が相談にやってくる。たいがいの社長は、『次はこんな商売で』という腹案もある。本業が不振だからと、新たな方向へ可能性を見出すのはいい。
だが、『こっちも続けながら、新しい商いで一発当てよう』という考えが通るほど、甘い時代でもない。また、本業が1回軌道に乗っていた人ほど、それが落ち始めると焦りだす。『このままじゃいけん……何か、何か、何か』と焦った状態で見出す次の一手は、お金と言う判断基準でしか考えられない。儲かりそうだからやってみる。自分が『やりたい、やりたくない』よりも、『儲かる、儲からん』しかきにしていない。(中略)
私も目先の儲けを追いかけて商いを多角化していった経験がある。でも、人に与えられた1日の時間は24時間しかない。当たり前だが、商売を増やしたからといって、使える時間が増えることはない。これまで本業1本に持てる時間のすべてを使っていて、それでもうまくいかなくなっていたのに、別の商売を並行させて、時間を分散してうまくいくだろうか?私の経験上、人生、そんなにうまくはいかないものだ」(119ページ)
私も、板坂さんのように、「現在の事業がうまく行っていないので、別の事業に進出して挽回したい」という中小企業経営者の方からのご相談を、これまでたくさん受けてきました。確かに、現在の事業はうまく行っていないから、別の事業で挽回しようと考えることは理に適っているように思えます。しかし、板坂さんも述べておられるように、「これまで本業1本に持てる時間のすべてを使っていて、それでもうまくいかなくなっていたのに、別の商売を並行させて、時間を分散してうまくいく」見込みは小さいと、私も考えています。
そして、もうひとつ大切なポイントは、「どの事業を営むか」よりも、「どのように事業を営むか」ということだと、私は考えています。というのも、最近は同じ業種の会社同士でも、成功する会社とそうでない会社に分かれつつあるからです。したがって、自社の事業がうまくいっていい会社が、成功している他社が営んでいる事業を営んだとしても、うまくいくとは限らないということです。
とはいえ、今回のテーマでは、どうすればよいのかという答えはありません。残念ながら、「自社の事業がうまくいっていないから、うまくいっている他社がやっている事業を、自社もやって挽回したい」と考えている時点で、ほぼ、手遅れです。だからこそ、現在の事業に全力で臨む、もっと正確に述べれば、マネジメントスキルを高めることに注力する必要があると、私は考えています。
2024/5/26 No.2720