[要旨]
フジテレビを傘下に持つ持株会社のフジ・メディア・ホールディングスの2017年3月期の貸借対照表によれば、同社の資産は1兆円、不動産が3,700億円、投資有価証券は3,000億円あり、放送会社でありながら、不動産事業の割合が本業に匹敵するくらい大きくなっているということが読み取れます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、機械設備や社屋・工場などを取得するときに、もし、その必要額の全額を融資で賄うと、自己資本比率が低くなり、会社の安定性が下がってしまい、また、固定資産は価格が下がってしまったり、変動しやすかったりするので、融資する銀行も、全額を融資することはリスクが高いと判断するということについて説明しました。
これに続いて、高橋さんは、フジテレビを子会社にもつ持ち株会社の、フジ・メディア・ホールディングスを例に、有価証券報告書の読み方についてご説明しておられます。「フジ・メディア・ホールディングスという会社には、(2017年3月31日に)資産が1兆円ほどあり、そのうち、建物と土地を合わせた不動産が3,700億円近く、投資有価証券が3,000億円強であることがわかる。フジテレビといえば、世間的には放送業である。それなら、資産は、放送業で使う土地と施設くらいのものになるはずだ。
それが、1兆円の資産のうち3割強を不動産が、さらには3割弱を投資有価証券が占めている。そんな額の不動産となると、放送業で使う土地と施設だけではないはずだ。『いわゆる“フジテレビ”の実態は、不動産などの投資会社なのか』と考えられるわけだ。しかも、前期と比べてみると、『建物及び構築物』も『土地』も『投資有価証券』も増えている。投資有価証券に至っては、約340億円もの増加だ。前期より盛んに投資をしていることが見て取れる」(156ページ)
ちなみに、2023年3月31日時点の同社の貸借対照表によれば、資産合計は1兆3,826億円、建物及び構築物と土地の合計額は4,541億円、投資有価証券は4,182億円です。ちなみに、貸借対照表の科目には「有価証券」という科目があります。「有価証券」と「投資有価証券」の違いは、有価証券を保有する目的で区別されます。例えば、同じ銘柄の株式であっても、短期的な資産運用で保有している株式は、「有価証券」として計上します。
一方、その銘柄が子会社(その会社の議決権を50%を超えて割合で所有するなど、実質的に支配している会社)や、いわゆる関連会社(持分法適用会社)など、政策的な意図を持って長期保有する会社の株式の場合、投資有価証券に計上します。話を戻して、同社の2023年3月期の売上高は、5,356億円ですが、そのうちメディア・コンテンツ事業は4,208億円(売上高に占める割合は78.6%)、都市開発・観光事業は1.088億円(同20.3%)です。
また、同社の同期の利益額は314億円ですが、メディア・コンテンツ事業は175億円(利益額に占める割合は55.7%)、都市開発・観光事業は151億円(同48.0%)です。(2つの部門の利益額の合計額が、全利益額を上回っていますが、これは、部門間の取引などによることが原因と思われます)これらのことからわかるように、同社は放送会社でありながら、本業での利益の割合は減少しつつあり、それを不動産事業などで補っているということが分かります。
これは、恐らく、地上波放送の広告収入が減少しているからではないかと思われます。なお、銀行が中小企業の融資審査をするときも、同じように、資産構成がどのようになっているのかを見ています。特に、貸借対照表で大きな金額を占めている一方で、利益額が少ないと、資産が過大に計上されていないか、よく精査したりします。話を戻すと、資産構成を分析することで、会社の事業展開を、ある程度、計り知ることができます。
2024/6/25 No.2750