鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

コーチのアドバイスは選手にとって邪魔

[要旨]

助言することによって、助言を受けた人はそれを理解できたとしても、必ずしもそれを実践できるとは限りません。したがって、人材育成の役割を担う人は、自分の経験に基づいただけの助言は避けるべきであり、助言を受けた人がそれを実践できるような工夫をした上で助言ができるようにしなければなりません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、千葉ロッテマリーンズ監督の、吉井理人さんのご著書、「最高のコーチは、教えない。」を読んで私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、コーチングは選手に主体があるので、選手自身に練習方法を考えさせることが大切であり、「社会的勢力」が強い立場にあるコーチが、強い口調で選手に指示を出すと、選手に悪い影響を与えるということを説明しました。これに続いて、吉井さんは、コーチは、自分の経験に基づいた言葉だけでアドバイスすることは避けた方がよいと述べておられます。

「これまでコーチとして関わった選手の中で、(他人の言葉を自分の感覚に変換して再現することを)完璧にできるのは、シカゴ・カブス(当時、現在はサンディエゴ・パドレス所属)のダルビッシュ有選手のほかに見たことがない。ほかの選手ができるといっても、ダルビッシュ選手との間には、圧倒的な差がある。日本のトップ選手が集まるプロ野球界でも、他人の言葉を自分の感覚に変換して完璧に再現できる選手は、ほとんどいないのだ。コーチのアドバイスは、本来、選手にとっては邪魔なものである。

だからこそ、コーチは自分の経験に基づいた言葉だけで、アドバイスするのは避けるべきだ。選手の言葉の感覚をしっかりとつかみ、その感覚でアドバイスしてあげなければならない。簡単に言えば、『わかる』と『できる』の違いだ。言っていることはわかるが、咀嚼できない、腹に落ちてこないのは、その選手の言葉の感覚に近づけていないからだ。だからこそ、コーチは、『その選手だったらどう思うだろう』と想像する能力が求められるのだ。技術指導、特にピッチングのような感覚的な動きを教えるのは難しい」(40ページ)

今回の引用部分は、ピッチングに関しては助言が難しいという内容なので、ビジネスには、あまりあてはまらないようにも感じます。でも、「自分の経験に基づいた言葉だけで、アドバイスするのは避けるべきだ」という部分は、ビジネスにもあてはまると、私は考えています。というのは、例えば、上司(に限りませんが)は、助言をするときは、自分の経験に基づいて行うことが一般的でしょう。というよりも、それは、当然なのかもしれません。しかし、それが最適かというと、私は最適ではないと思っています。なぜなら、自分の経験を話すだけなら、誰にでもできるからです。

要は、助言する側と助言される側には、経験の差しかないということです。でも、人材を育成する役割を担っている人が長けていることは、経験だけというのでは、あまり意味がないと思います。部下を育成するのであれば、どのような助言(助言しないことを含めて)が的確なのかを考えるべきでしょう。繰り返しになりますが、経験を話すことと助言をすることは異なるということを、人材育成を担う立場の人は理解したうで、そのためのスキルを身につけることが求められています。

2023/5/10 No.2338