鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『うちって何の会社だったっけ』症候群

[要旨]

変化の激しい時代においては、事業内容が次々と変わったり、目指す先が見えなくなったりするため、どんな企業や業種でも、『自社は何の会社なのか?』が曖昧なものになり、『うちの会社って、何の会社だったっけ?』という状況に陥りがちです。これを解消するためには、上司と部下が短いサイクルで面談を繰り返し行う、1on1ミーティングが有効です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、立教大学経営学部の中原淳教授の著書、「チームワーキング-ケースとデータで学ぶ『最強チーム』のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、会社の事業活動は組織的に行われていますが、「振り返れば誰もいない病」というような、組織活動が行き詰ってしまう症状に陥る会社が多いので、経営者の方は、事業活動の運営だけでなく、組織運営に関するスキルも備える必要があるということについて説明しました。これに続いて、中原教授は、現在の会社はVUCA病にかかっていると述べておられ、そのひとつの症状として、「うちの会社って何の会社だったっけ?」症候群について説明しておられます。

「変化の激しい時代においては、事業内容が次々と変わったり、目指す先が見えなくなったりするため、どんな企業や業種でも、『自社は何の会社なのか?』が曖昧なものになり、『うちの会社って、何の会社だったっけ?』という状況に陥りがちです。(中略)トヨタ自動車豊田章男社長(2019年12月当時)は、トヨタを“自動車の会社”ではなく、“移動(モビリティ)を提供する会社”と再定義しています。現代の組織は、もはや、自分たちが『何屋』であり、何をしていくのかを、日々、市場の変化に伴い、アップデートし続けなければならない使命を帯びています。(中略)このような、『うちの会社ってなんの会社だったっけ?』という状況では、自社の目標も見失われがちになります。(中略)

目標が見失われがちな組織では、カオスに陥ることなく、それぞれの現場でいかにして目標を見定め、人を巻き込んで働くのか……ということが重要になってきます。そこで、多くの企業で導入され始めたのが、上司と部下が短いサイクルで面談を繰り返し行う、『1on1ミーティング』ではないでしょうか?(中略)私たちがTwitterで行った簡単な調査(N=136)では、期初と期末に面談をするだけでは、目標を期中に思い出さない社員が37%、2~3か月(中間面談)に一度思い出す社員は35%、常に心にとめている社員は14%であるという結果でした」(35ページ)

私は、「1on1ミーティング」を行うだけでは、「うちの会社って何の会社だったっけ?」症候群は解消しないと思いますが、これを行う会社とそうではない会社との間には、業績に大きな差が現れると思います。ところが、1on1ミーティングそのものは、それほど難しいことではないので、実践することは簡単そうに思われるのですが、なかなか実践されることは少ないようです。その理由にはさまざまなものがあると思われますが、最も大きな原因は、経営者やマネージャー職の人が、事業現場の活動に労力がとられたり、1on1ミーティングなどの組織運営のための活動に、あまり関心が向かないからだと思います。

でも、現在は、組織の能力が重要になりつつあるわけですので、経営者の方は、組織運営に労力を割くように努めるべきでしょう。確かに、多くの職場では、日々の活動をこなすだけで精一杯という状況にあると思います。でも、長期的な視点に立てば、組織の能力を高めた方が、少ない労力で大きな成果が得られるということは明らかです。したがって、組織の能力を高めるための活動にどれだけ注力できるようになるかが、現状から抜け出すための大きな鍵になっていると考えられます。

2023/4/28 No.2326