鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

不慣れな会社はVCに主導権がわたる

[要旨]

スタートアップがベンチャーキャピタルから資金調達をしたとき、投資契約書などにより、さまざまな財務目標を達成しなければならなくなるなど、自主的な事業運営が制限されることがあります。VCの利用が直ちに問題になるわけではありませんが、出資の受け入れに不慣れな経営者は、資金調達に詳しい専門家を雇い入れるか、外部専門家として顧問契約を結ぶなどして判断仰ぎ、適切な資金調達を行い、自立的な事業運営ができるようにすることが望ましいでしょう。


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前回は、AbemaTVに出演した、元スタートアップ経営者の中山翔太さんのご経験に基づいて、経営者の方は、万一のときに備えて、会社の畳み方についても学んでおくことが望ましいということについてご説明しました。ちなみに、この番組を視ていて、もうひとつ私が注目したことがあったので、ご紹介したいと思います。中山さんの会社は、起業後、ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家から、累計で10億円の資金調達をしたようです。

ところが、そのような多額の資金を調達できたことは、却って、中山さんに対して、高額の配当を行なったり、株式の評価額を高めたりしなければならないというプレッシャーになってしまったようです。そこで、中山さんは新たな設備投資などを積極的に行ったものの、思うような事業展開ができず、最終的には会社を畳むことになったようです。では、投資家からのプレッシャーがなかったとしたら、中山さんの会社の事業は成功したのかという点についても確かなことは言えません。

でも、少なくとも、中山さんの会社の事業運営については、投資家たちにイニシアティブを握られ、配当やキャピタルゲインを投資家たちに与えることが、事業活動の実質的な目的になってしまっていたと考えることができます。そのことは、中山さんの会社の健全な事業運営にあまりよくない影響を与えたことは確かではないでしょうか?では、スタートアップは、VCからの投資は受けながよいのかというと、必ずしもそうとは限らないと、私は考えています。

VCは、銀行が融資を断るような会社の事業であっても投資をしてくれることが多いと思います。しかし、VCの場合、銀行と違って、株主として議決権を有しているため、前述のように、会社の運営に関して、ある程度のイニシアティブを持たれてしまいます。(特にVCの場合、投資契約条項によって、財務目標など、一般の株主に対してよりも、多くの義務を会社が負うことが多いようです)

このように、VCからの資金調達は、会社にとっての義務が多くなることは、投資する側から見た時に投資に対するリスクが高いことの裏返しとも言えるので、避けることは難しいでしょう。では、中山さんの場合、どうすればよかったのかというと、資金面を中心とした事業管理に精通した人材を雇い入れたり、または、外部専門家として助言をもらうことで、中山さんが希望するような事業展開ができるようになったと思います。

もちろん、資金調達をする相手が銀行であれVCであれ、100%、経営者の希望通りにはならないこともありますが、少なくとも、イニシアティブを手放すようなことにはならなかったでしょう。そして、中山さんの話しぶりからすると、表現は不正確かもしれませんが、VCから性急な事業拡大をけしかけられた節もあり、そのことが、妥当な事業運営の判断の妨げとなった可能性があります。

2023/4/12 No.2310