鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

曖昧な喜びがお金の導火線になる

[要旨]

過去に、自分が苦労してきた経験を持っている方が起業したり、管理者になったりすると、自分と同じ経験を部下にも経験させようとすることが、しばしば見られます。しかし、そうすると、部下たちの活動はぎこちないものとなり、よい成果になかなか結びつきません。むしろ、権限委譲を進め、部下の判断に任せる方が、生き生きと活動できるようになり、よい成果が得られるようになるでしょう。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、渡辺先生のご著書で紹介されている、成功を引き寄せる22の法則のうち、「法則9:経営者の自意識がお金と人を引き寄せる」を説明しましたが、今回は、これに続いて、「法則10:曖昧な喜びがお金の雪だるまを作る」について説明したいと思います。

「正論で責めてくる方のエネルギーのもとは、悲しみです。『俺は、こんなにやってきた、先輩から押し付けられてきた、悲しかったけれど、俺はやってきた、だから、あなたたちもそうしなさい』という、押しつけがましい気持ちいが潜んでいます。一方、なんだかよくわからないけれど、楽しいよね、という曖昧な喜びを持った方は、喜び、楽しみ、ワクワク感に溢れています。楽しい方に、人もお金もたくさん寄ってきます。

例えば、居酒屋さんがあったと仮定します。A店は、責め心満載の店長のお店です。あいさつもきっちりしていますが、店員さんは、怒られないように委縮しています。マニュアルをそのまま実行するので、間違いはないけれど、声は大きいけれど、心がこもっていないあいさつで、棒読みのような、どこか冷たい対応です。雰囲気もガチガチになっていて、素材もこだわっているけれど、クレームが起こらないよう、最新の注意を払っています。(中略)

一方、喜び全開の店長のB店は、『失敗してもOKだよ、マニュアルは特に作っていないけれど、お客様には親切に」というポリシーが定着化しています。お客様がオーダーしたいときには、最高の笑顔で目を配ります。返事は明るく爽やかで、何よりもお客様にしっかり向いてくれています。温かさ、親切、自分たちの美味しい料理をお勧めして、楽しさが伝わってきます。(中略)従業員も店主も、お客様と友達になります。(中略)

仕事をしていて、こんなに楽しんで良いのだろうかと思うときがありますが、好きな料理を作り、喜んでくれるお客様がいる、生きがいをもって働いてくれる従業員がいる、というありがたいことだらけの居酒屋さんが発展しないはずはありません。お金は、このように楽しいところ、人が集まるところ、感謝の気持ちなど、綺麗な感情がだいすきです。(中略)お金はエネルギーの結晶、楽しい人、喜びに、人もお金も寄ってきます。そして、雪だるまのように増幅していきます」(121ページ)

この「法則10」も、ほとんどの方が理解されると思います。しかし、私も、これまで、「俺はこれまでこんなに苦労してきた、そしてやっと社長の座についた、だから従業員も自分と同じ道をたどるべきだ」と考えている経営者の方に、何人もお会いしてきました。そして、前述の引用事例の居酒屋A店の店長のように、厳しい管理によって事業運営をしようとします。そのような経営者の方は、表向きは、「従業員に苦労させることは、かつての自分のように、成功するための道を歩んでもらうためだ」と言っていますが、心の深いところで、「自分がこれだけ苦労してきたのだから、部下が楽をして成功することは許せない」という考えを持っていることが透けて見えます。

このような経営者、管理者は、部外者からみれば、ちょっと人間的に器量が小さいと感じると思います。でも、私は、そういう経営者の方の気持ちも理解できます。私が、かつて勤務していた銀行の職場環境は、正直なところ、ブラックでした。だから、私より後の世代の職場環境が、ホワイトになっていたりすると、「今の若い世代は、忍耐力やハングリー精神が身につかなくなるのではないか」と、妬みの気持を持ってしまいます。でも、冷静に考えれば、職場で使うエネルギーは、上司や同僚に向けず、すべてを業績向上のためだけに使う方が、業績がよくなることは明白です。

したがって、「自分はかつてこんな苦労をしてきたけれど、自分の部下は、そんな遠回りなことをさせず、もっと近道をして業績をあげて欲しい、そうすることが上司の自分にとっても得策だ」と思えるようになることが最善ということになります。このように考えられるかどうかは感情の問題なので、自分の悲しい経験が多ければ多いほど、前向きに考えられるようになるのには、時間も労力もかかるでしょう。ですから、これから起業しようとする方、部下を持つことになる方は、自らが成功するためも、自分のかかえている「悲しみ」の感情は自分でとどめるよう、努めていただきたいと思います。

2023/4/6 No.2304