鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

値上げは優良顧客を絞り込むチャンス

[要旨]

あるペットサロンでは、2022年5月に料金の値上げをしても、売上や粗利益が増加しました。値上げによって、一部の顧客は失いましたが、値上げ前から顧客との信頼関係を築くための働きかけをしてきたことから、大部分の顧客からは、値上げに関して容易に理解を得ることができたようです。


[本文]

今回も、小阪裕司さんのご著書、「『価格上昇』時代のマーケティング-なぜ、あの会社は値上げをしても売れ続けるのか」を読んで、私が気づいたことについてご紹介します。小阪さんは、同書で、2022年5月に、料金の値上げをすることによって、売上を増やすことに成功した、あるペットサロンの事例と、その成功の要因に関する分析についてご説明しておられます。

「値上げにあたって、店主は、世の中の流れに便乗し、単に、『たいへんだから、値上げします』としたくはなかった。これまでの経緯、意図があっての値上げであること、ある意味、苦悩の決断であることを、しっかりと伝えたいと考えた。そこで、ことの経緯や背景を、定期的に発行しているニュースレターに書き、店のLINEや店頭のカウンターでも、『トリミングとペットホテル料金の値上げを行いますが、この苦渋の決断の経緯と、お客さまに対する思いが、ニュースレターにつづられていますので、ご一読をお願いします』と発信し、訴えた。その結果、値上げをした2022年5月の売上は、前年同月比で108%となった。

部門別では、トリミング100.2%、ホテル127.9%、ドッグトレーニング149.9%、物販122.1%だった。(中略)さらに、月間の粗利益は、前月比215%となった。(中略)ちなみに、値上げに対して、お客さんの反応は、大きく4つに分かれたそうだ。まず、値上げを理解いただけないお客さん。そして、『あ、そうなんですね、わかりました』と言ってくれはするものの、言葉は少なめで、次回の予約は入れてくれないお客さん。

ただ、多かったのは、『かなり上がるね、でも、しょうがないよね』と言いつつ、予約を入れてくれるお客さんと、『はいはい、ぜんぜん大丈夫だよ』と、普段とまったく態度が変わらないお客さんだった。もちろん、こうしたお客さんが多いことの背景には、店主を始め、スタッフが日ごろから顧客との関係性作りを意識し、ニュースレターなどの情報発信により、コミュニケーションを取り、良い関係を育んでいたことがあるだろう。

関係性のある顧客は、値上げの許容度も大きいからだ。しかし、いくら関係性を育んでいても、理解してもらえなかったり、受け入れてもらえないお客さんはいる。では、どうすればいいのかというと、ここは考えどころだが、私は、そういうお客さんは、顧客にしようとしなくてもいい、つまり、『お客さんは選んでいい』と思う。値上げは、自社にとっての優良顧客を絞り込むチャンスでもある」(124ページ)

「お客さんは選んでいい」という言葉は、少し不遜な印象を受けますが、私も小阪さんの考え方は正しいと思っています。なぜなら、値上げをして離れていく顧客は、自社にとってあまり利益をもたらさない顧客だからです。経営者としては、値上げが原因で顧客が離れることに恐怖を感じることもあると思いますが、あまり利益をもたらさない顧客を引き留めるために、労力や費用を注ぐことは非効率だと思います。

その労力や費用は、自社に利益をもたらしてくれる顧客に対して、さらに親密な関係を構築するために振り向けることで、さらに売上や利益を得る方が効率てきと言えるでしょう。ただし、値上げについては、小阪さんもご指摘しておられますが、注意が必要です。というのは、値上げをすることが、単に、会社側の身勝手な都合ではないと理解されるような信頼関係を築いておかなければならないということです。もし、値上げをする前から顧客に評価されていなければ、値上げをしたときに、さらに不満が大きくなってしまうだけになってしまうでしょう。

2023/1/18 No.2226