鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

目指す状態は実質無借金経営

[要旨]

銀行に、いつでも融資全額を返済できる額の預金をしたまま融資を受ける状態、すなわち、預貸率(=預金額÷融資額)が100%以上となる状態を、実質無借金経営といいます。これは、実質的には無借金の状態でありながら、融資を受けていることになるため、自社がピンチになったときに、銀行からの支援を受けやすくなります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、税理士の児玉尚彦さんのご著書、「会社のお金はどこへ消えた?-“キャッシュバランス・フロー”でお金を呼び込む59の鉄則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、児玉さんが、現時点で手許資金が潤沢であっても、自社が、将来、ピンチになったときに備えて、銀行から融資を受けておくことが得策であると説明しているということを紹介しました。これに続いて、児玉さんは、その具体的な手法として、「実質無借金経営」の状態になることを薦めておられます。

「会社を成長させながら、お金もしっかり確保するには、どういう経営スタイルを考えていけばいいのかと言うと、結局、銀行と良好な関係を維持せざるをえなくなります。銀行側は、いつも預金残高と融資残高を比較して、会社のお金の動きをチェックしています。この融資額に対する預金残高の割合である、“預金対借入金比率(=預金残高÷融資残高)”を、銀行側では「預貸率(よたいりつ)」と言います。銀行は、預貸率が低くなると、融資を返済してもらえるのか心配になりますから、融資には慎重になっていきます。逆に、預貸率が高い会社ほど、安心して融資をするうことができます。

最近、日本経済新聞などで、上場会社の4割が、『実質無借金経営』という記事を、よく見ます。実質無借金経営と言うのは、返そうと思えばいつでも手許の現預金と有価証券で融資を全額返済できるという状態です。預金と融資を両建てで持つことは、客観的に見ると、効率がとても悪いように見えます。本来、支払う必要のない支払利息を払っているわけですし、会社の資産・負債を大きくして、資本効率(総資産に対する利益の割合)を下げているからです。しかし、経営は効率だけではありません。この実質無借金の状態を継続させているおかげで、銀行からの信用が厚くなり、いつでも必要なお金を調達することができるわけです。

預貸率が100%以上である、実質無借金経営は、一見、無駄なような気がしますが(中略)、実質無借金経営の状態であれば、銀行に対して返済の余裕を見せつけながら、返済の実績を積み重ねていくことができます。さらに、この間、銀行にもしっかり儲けさせているので、銀行にとっても、取引を最も継続したい会社なのです。結局、中小企業が理想とすべき経営スタイルは、融資を受けないでいる無借金経営ではなく、必要なお金をいつでも調達できる、『実質無借金経営』ということになります」(173ページ)

銀行は、一部の例外を除き、将来の融資を確約することはしません。しかし、児玉さんのご指摘しているように、銀行から見て融資取引を続けたいと評価してもらえるようになることは、「切り札」を持つことに等しくなると思います。したがって、これは必ずしも適切な表現とは言えませんが、返済可能な融資の支払い金利は、自社がピンチになったときに銀行から助けてもらうための保険料と考えることができます。

中には、「なぜ、先に、銀行にそんなに儲けさせなければならないのか」と考える経営者の方もいると思います。私も、そう考えることは理解できます。ですから、納得できない場合は、借りたくない融資は受ける必要はないと思います。しかし、信用できない相手に、自社がピンチになったときは助けてもらおうとするという考え方は、あまり現実的ではないと考えることもできるのではないでしょうか?

2022/12/28 No.2205